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政治意識の断裂

2019年8月16日

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政治経済情報誌「ELNEOS」8月号寄稿

 参議院選挙は、本稿執筆時点で新聞各社の終盤の情勢調査が明らかになり、与党と維新などの改憲勢力は、参院の発議に必要な三分の二に迫る勢いである。「安倍一強」に揺るぎはない。

 今回の選挙戦の報道のなかで、若者の自民党と政権に対する支持率の高さに多くの紙面が割かれたようにみえる。

 東京新聞は七月一日付の「若者の自民支持率はなぜ高い」のタイトルを掲げた。二〇一七年衆議院選挙における、共同通信の出口調査の結果として、一〇代が三九・九%、二〇代が四〇・六%と、全年齢層の三六%を上回っている事実をあげる。複数の大学生のインタビューを通じた、自民党優位の要因として「とりあえず現状維持」と結論づける。

 日経新聞は同月六日付「政権支持 二〇代は七割」の刺激的な見出しで報じた。同社の六月の世論調査の結果である。六〇歳以上の支持率は四六%である。「これまで日本は欧米ほど世代間の分断は目立っていなかった。政権支持の背景を探ると、新たな兆しがみえてくる」としている。

 早稲田大学社会科学総合学術院の遠藤昌久准教授と同大政治経済学術院のウィーリー・ジョウ准教授による最新刊の「イデオロギーと日本政治―世代で異なる『保守』と『革新』」(新泉社刊)は、政治信条の分断に関する今後の議論の出発点となる分析である。論壇のなかで高い評価を得ている。

 政治と経済の関係について、企業のなかで最も鋭敏であるべき組織は、広報部門である。政権の政策によって、企業行動は変化を求められる。与党の支持母体について、「ファクトフルネス」な情報をメディアの報道のなかからすくい取って、経営層に上げなければならない。

 「イデオロギーと日本政治」は次のように述べる。

「学術的にもジャーナリスティックにも共有されてきた、政党や政権に関する保守・革新イデオロギー上の相対的な位置への合意は、中高年の有権者の心の中には存在しているが、過去30年間に有権者となった若い世代にはいまや適用できない」

 保守・革新イデオロギー上の位置について、12年の衆院選挙のウェブ調査の結果を引用して「40代以下の若い有権者が今日の日本政治において最も『革新』側に位置していると考えているのは、共産党ではなく、日本維新の会やみんなの党といった新党であった。これらの政党は規制緩和や、より積極的な外交政策を支持しており、他のコンテクストでは保守や右派として考えられているにもかかわらず、である」

 高齢者と若者層の政治意識の断裂について、同著は対立軸として「保守・リベラリズム」とともに、「改革志向」というキーワードを提起している。両社を座標軸にとると、50歳以上では、」自民党が保守でありながら改革志向はトップである。共産党がリベラルのトップ、民進党が続く。両党ともに改革志向の側面で公明党と日本維新の会に及ばない。

 49歳以下では、改革志向のトップが日本維新の会であり、自民党が続く。共産党は保守的なトップの政党であり、改革志向は最低である。「維新は『革新』、共産は『保守』」という政治意識と、自民党は「改革派」である、という若者の政治意識が参院選の結果を左右する。

        (以上です)

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