政治経済情報誌「ELNEOS」6月号寄稿
企業ばかりではなく、大学やスポーツ団体などでも不祥事が起きている。上場企業に対する内部統制の規制の強化や、企業不正の検査の専門家の養成を目指す、国際的な組織である「公認不正検査士協会(ACFE)」の日本支部もある。公認不正検査士の資格試験を実施している。
不祥事が起きてから、さまざまな組織が立ち上げる、第三者委員会の報告書については、弁護士の久保利英明氏が委員長になって「第三者委員会報告書格付け委員会」も二〇一四年から活動している。報告書自体については、日本弁護士会が二〇一〇年にガイドラインを示している。
それでも、組織の不正はなくならない。かえって増えているのではないか。では、それは何故なのであろうか。あまりにも素朴な疑問に読者の微苦笑を誘うのを承知で議論を進めたい。
「不正は決してなくならない…『不正は起きる者である』」という、帯を巻いた「鼎談 不正¦最前線」(同文舘出版・二〇一九年二月)は、不正問題や内部統制、不正に関する教育・人材育成など、多角的に三人の専門家が語り合った。
日本公認不正検査士協会の評議員会会長の八田進二氏、理事長の藤沼亜起氏、日本監査研究学会会長の堀江正之氏である。
先の筆者の疑問を解く手がかりが、この鼎談のなかで八田氏が紹介している、ОECDが十年前に行った日本の監査制度の検証のなかにあるように思う。検証の目的は、日本の公認会計士の育成方法にあった。
八田氏が驚いたのは、検証の多岐にわたる議論のなかで、ОECDが「倫理教育はどうなっていますか?」と尋ねてきたことである。同氏は振り返る。
「『今の日本には、倫理を直接に扱った科目はありません』と答えると、『ないのはおかしい』と言うわけです。それで苦しまぎれに『あえて言えば、監査論の試験のなかでふれられているくらいです』と言いました。ところが、途上国の場合でも、監督論の領域の試験だと思いますが、そのなかの2割くらいは倫理関係の内容が占めるそうです」
「関係者のなかには、日本の公認会計士は極めて優秀で、試験の合格率も数パーセントであり、アジアの会計士とは品質が違うと発言した人がいました。そうしたら、倫理教育をやっていなくて、どうして質が高いと言えるのですかと問われ、一同、言葉に詰まりました」
企業や組織の会計的な不正を糺す公認会計士の資質に「倫理」が欠けていては不正の真相に迫れない。法曹資格である弁護士もまた、そうである。顧客である企業や組織に対して、経理にかかわる法規ばかりに準拠していては、社会が納得する第三者委員会の報告書も十分なものにはならない。
IT企業の広報部門で働いていたときに、ある傘下の企業の正当な売却にあたって、この売却を阻止しようとした企業のなかに、コンプライアンスの専門家として知られる弁護士が加わっていた。「顧問弁護士」の名のもとに、「倫理」に欠ける仕事ぶりには驚かされた。企業の不正のカゲには、倫理なき専門家がいる。