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米中・新冷戦の行方

2019年1月3日

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政治経済情報誌・ELNEOS 1月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 中国のアリババグループの創業者である、ジャック・マー会長は、いわゆる米中貿易戦争について「米中が覇権争いをしていることから両国の貿易摩擦はトランプ大統領の任期が終わっても残り、二〇年間にわたって続く可能性があると指摘」と報じられた(ブルンバーグ・二〇一八年九月一八日)。杭州で開いた投資家向けの会合で語った。

 マー会長の発言は、日本の新聞などでも小さく報じられた。企業の広報部門は、この記事を経営層に届けるクリッピングに入れたであろうか。戦前の大本営作戦参謀にして、戦後は伊藤忠商事の会長などを歴任した、瀬島龍三氏は新聞の外報面のベタ記事に注意を払ったという。

 日本のメディアは。一九八〇年代の日米貿易摩擦の記憶から「米中貿易戦争」の見出しで米中関係を報じてきた。世界的には、「新冷戦」との認識がふかまっている。マー会長が米中の覇権争いである、という認識は正しい。

 ニクソン米大統領を辞任に追い込んだ、ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者による最新刊の「FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実」(日本経済出版社)は、政権内のトランプ一族の大統領上級顧問である、娘婿のクシュナーと娘で大統領補佐官のイバンカのふたりが、他の閣僚や重要な人物との軋轢を余すことなく描いて、世界最大の大国の政策決定の危うさを知ることができる。

 さらに、「アメリカ・ファースト政策」を掲げて、トランプが進めるNAFTAの再交渉やTPPからの離脱、中国製品に対する課税強化など、経済政策に関する政権内の議論も描かれている。

 国家経済会議(NEC)委員長のゲーリー・コーン(一七年一月~一八年四月)が自由貿易の優位性を説くのに対して、トランプが「グローバリスト」となじる場面は白眉である。筆者のウッドワードは「経済学者の百人のうち九九人がコーンに賛同するだろう」と述べている。しかし、対中貿易政策についてトランプの側につく、百人にひとりの発言権が高まっている。

 その人物は、国家通商会議(NTC)委員長のピータ・ナバロ。政権入りする前職のカリフォニア大学アーバイン教授時代に「米中もし戦わば 戦争の地政学」(文藝春秋社)を著した。中国が経済発展にともなって、軍事的にも米国の脅威になる、と警鐘を鳴らしてきた。政権の対中強硬派の中核となっている。

 米中・新冷戦の認識に光を当てるのが、マイケル・ピルズベリーの最新刊「China 2049 秘密裏に遂行される『世界覇権100年計画』」(日経BP社)である。ピルズベリーは国務省顧問。ニクソンからオバマに至る政権で対中防衛対策を担当した。

 諜報とその分析のプロである、ピルズベリーが、共産党が政権を握った1949以来、中国が長期的に世界の覇権を狙っていたことを認識したのは、最近のことだと、悔やんでいる。米国は中国が経済発展すれば、民主主義国家に移行するだろうという予想から、軍事分野も含めて技術援助を惜しまなかったという。「もし中国政府が現在の優先事項を堅持し、同じ戦略を続け、毛沢東が政権をとって以来、大切にしてきた価値観に固執するのであれば、中国が形成する世界は、わたしたちが今知っている世界とは大いに異なるものになる」と警告する。

        (この項了)

 

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