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情報分析の重層性 ②

2018年12月3日

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政治経済情報誌・ELNEOS 12月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が首脳会談で、北方領土について、一九五六年の日ソ共同宣言を基礎にして日ロ平和条約交渉を加速させることに同意した。共同宣言によれば、平和条約の締結後にロシアが歯舞群島と色丹島を日本に引き渡す、としている。

 日ソ関係の転換は、世界秩序に大きな変化をもたらすことになる。日本企業にもその変動の波は打ち寄せる。

 このシリーズでは、京都大学名誉教授の中西輝政氏の「アメリカ帝国 衰亡論」(幻冬社)を手掛かりにして、情報分析の重層性について考えてきた。すなわち、日々のニュースは上層であり、中層は覇権国のパワーの関係など、そして下層が世界史的な潮流である。

 この情報分析の重層性は、米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問のエドワード・ルトワック氏の最新刊「日本4・0 国家戦略の新しいリアル」(文藝春秋社)の視点にも現れている。同氏は、ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーである。

 「現在、北朝鮮はアメリカとの非核化の交渉に応じているように見える。しかし、それがこのまま続くという確証はどこにもない。トランプ大統領でさえ『半年経ってみないと、(首脳会談が)成功かどうかわからない』と述べているほどだが、これが建前ではなく、事実であろう」と、日本が直面している朝鮮半島の行方について分析する。

 「核兵器の本質が抑止である以上、あえて威嚇に使うのは合理的でとはいえない。抑止のルールの外側に出ようとする国家に対して必要なのは、『抑止』ではなく防衛としての『先制攻撃』なのである。この『先制攻撃』を具体的にいえば、北朝鮮のすべての核関連施設とすべてのミサイルを排除するということ、すなわち軍事的非核化である。実は、アメリカはこの軍事オプションをまだ手放してはいない」と述べる。

 アメリカにとって最も警戒すべき相手は、台頭する大国、中国である、というトランプ政権の見方を、ルトワック氏は共有して次のように述べる。

 「中国問題に集中するために、ロシアと何かしら合意を結ぶべきだ、という考え方である。これは冷戦下で、ニクソン大統領が毛沢東と手を結んで

台頭するソ連に対抗したやり方と似ている」と。

 トランプ大統領の考え方について、およそ以下のようなものだろう、とルトワック氏は分析する。

 「もしロシアがシベリアを失うようなことがあれば、それはアメリカではなく、中国人にとられるからだ。米露は、中国の膨張を食い止めるという点で共通の利益を持っているはずだ。だから協力をしようじゃないか」

 このように、朝鮮半島の危機と米中両国の覇権争いという歴史的な転換点において、日本は新しいシステム「4・0」を構築しなければならない、というのである。ルトワック氏によると、「1・0」は江戸幕府時代であり、「2・0」は明治維新、「3・0」は終戦後の体制である。これらの過去のシステムに対して、「日本人は戦略下手どころか、極めて高度な戦略文化を持っていると考えている」と評価する。

 京大名誉教授の中西氏が「「世界史の教訓」(育鵬社)のなかで、維新前夜において、世界的規模で繰り広げられていた英露の覇権争いを幕府は巧みな外交によって乗り切った、と評価しているのと響き合う。       (この項了)

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