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現代女優論  蒔田彩珠

2018年8月24日

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WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本  投稿

 NHKドラマ10「透明なゆりかご」(金曜日夜10時)は、海沿いの町の小さな由比産婦人科を舞台にして、看護学校に通いながらバイトの看護助手を続ける、青田アオイ(清原果耶)の成長の物語である。病院モノのドラマの多くが、救急医療に携わる医師や難病を解決する名外科医を主人公にしているとは異なって、母子家庭にあって懸命に働こうとしているアオイという、少女の物語は強く心に残る。病院モノの既成概念の打ち破る傑作である。

 ヒロイン・アオイ役の清原果耶は、連続テレビ小説「あさが来た」(2015年度下期)のレギュラーとして女優デビューした。放送90年を記念した壮大な大河ファンタジードラマ「精霊の守り人」(2016・2017年)では、主人公・バルサの綾瀬はるかの少女時代を演じた。可憐な表情の奥に強い芯がある若手女優である。

 ドラマは、毎回ゲスト女優に妊産婦を演じさせて、オムニバス形式で進行する。第2回「母性ってなに」には、カンヌ国際映画祭で「万引き家族」(2018年)によって最高賞のパルム・ドールを獲得した、是枝裕和監督組の蒔田彩珠(まきた・あじゅ)が望まぬ妊娠と出産をした高校生・中本千絵役で登場した。「三度目の殺人」(2017年)では、弁護士で父の福山雅治の娘役、「万引き」では松岡菜優の妹役である。憂愁を帯びた美少女役が似合う。

 是枝組のみならず、湯浅弘章監督による最新の「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」や、瀬々敬久監督の「友罪」など、日本を代表する監督たちがいま最も起用している若手女優のひとりである。

 医院の入り口の脇から子猫の鳴き声を聞きつけた、アオイ(清原)はそこに置かれた紙袋のなかにタオルで包まれた赤ん坊を見つける。医師の由比朋寛(瀬戸康史)が診断すると、30週ほどで生まれた体重2キロ余りの未熟児だった。アオイが赤ん坊の担当になる。

 「名前をつけたほうがいい」というアオイの提案に、師長の榊実江(原田美枝子)は彼女に「もう少し発見が遅れたら死んでいた。あなたは命の恩人だから名前をつけなさい」という。アオイは、「しずか」と名付けて、「しずちゃん」と呼びかけながら世話を続ける。

 哺乳をしようと、しずかをみつめた時、アオイは言い知れぬ気持に襲われる。看護師の望月紗也子(水川あさみ)が「どうしたの?」と呼びかける。

 「なんか胸が苦しい。すいません」と、アオイは答える。

 しずかと名付けた赤ん坊の体重が数十グラムでも減ると、自分の世話が悪かったのかと動揺もする。

 「しずちゃん、ママがんばるからね」と、アオイは無意識に話しかける。

 そんなアオイに、看護師の望月はこういう。

 「やめなさい。自分のこと、ママっていってたよ。あまり入れ込まない方がいい」

 2週間が経って、赤ん坊を生んだ高校生の中本千絵(蒔田彩珠)とその父母が産院を訪れる。千絵の体調が悪いというので、両親が病院に連れて行ったところ、「出産したのではないか」と診断され、千絵を問い詰めたところ産院のそばにこども捨てたこと打ち明けたからだ。出産はひとりで、自宅のお風呂場でなされた。

 医師の由比(瀬戸)に謝る両親をさえぎるようにして、千絵が叫ぶ。

 「近所のごみに出そうかと思ったけど、終わってたし、わざわざ自転車で捨てにきたら無駄になった。そんなのみせないでよ」

 由比は、千絵に諭すように優しく尋ねる。

 「どうしてうちに捨てたの?前にも来たことがあった?」

 千絵はそれに答えずに、じっと見つめているアオイ(清原)に噛みつくように大声をあげる。

 「なにみてんの。あんなには関係ないでしょ」

 「わたしはこの子のお世話を」とアオイ。

 「仕事なのに善人ぶらないでよ」

 清原果耶と蒔田彩珠という、次の時代を担うであろう若手女優のぶつかり合いは胸に迫る。これからのちもふたりは、別の作品で演技を競うのだろう。

 千絵と両親が産院を去ってから、看護師の望月(水川)はアオイに語りかける。

 「だから、いったでしょ。あまり入れ込んじゃあいけないって」

 アオイは、反発する。

 「勝手に生んで、ゴミみたいに捨てて、なんでそんな人にわたさなければいけないんです?」

 「生んだのはあの子で、あなたは看護助手。あの子は30週育ててきた。あなたは2週間でしょ。3月ぐらいか、彼女が妊娠に気づいたのは。どんな気持ちでサックらを見たんだろ。赤ちゃんだけをみちゃだめよ」と、望月は諭すのだった。

 アオイは気持ちが収まらず、千絵に一言いってやりたくて、海沿いの急な坂道を自転で登る。あえぎながら、途中で息切れをしながら、アオイはこの坂道を自宅で出産して、自転車の前かごに、赤ん坊を入れた紙袋を入れて、産院まできた千絵の姿がみえてくる。出産後の苦しみのなかで、懸命に自転車をこぐ。そして、桜の花散るころ、産院の前でたたずんでおなかを抑えながら、なかにはいることができなかった千絵である。

 アオイは、千絵の自宅の前に着くが、そのまま自転車の方向を変えて、泣きながら坂道を下っていった。

 

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