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朝鮮半島クライシスの行方

2018年7月4日

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政治経済情報誌・ELNEOS 7月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「完全非核化」を確認した、米朝首脳会談を受け、日本政府は最重要課題と位置づけしている「拉致問題」について、安倍晋三首相は北朝鮮と直接交渉に当たる可能性について言及した。

 北東アジアにおける地政学クライシスはこれからどのように変化していくのだろうか。政府のみならず企業も米朝合意の枠組みのなかでさまざまな活動をしていくことになる。

 地政学的なリスクを意識しながら日々の企業活動の危機管理に当たっている広報パーソンの方々とともに、朝鮮半島の今後を考えるうえで必要な「補助線」を引いてみたいと思う。

 「朝鮮半島 地政学クライシス」(日本経済新聞社出版、小倉和夫氏ら編・二〇一七年)は、今回の米朝首脳会談の結果を予測していた。

 米朝関係に詳しいジョージ・ワシントン大学のヤン・C・キム名誉教授は「武力行使のオプションを排除するなら、北朝鮮への説得力あるインセンティブ提供も検討しなければならない」と指摘している。

 韓国の中央情報部(KCIA)の北朝鮮情報局長や統一相を務めた、康仁徳・慶南大学教授は「制裁と協力のバランスを維持することだ。制裁措置は、北朝鮮当局者たちのタイ人民統制強化の良い名分になっている」と強調している。

 元駐韓特命全権大使の小倉和夫・青山大学特別招聘教授は「過去の歴史を振り返ると、経済制裁がそれなりの効果を上げたケースにおいては制裁のやり方や中身よりも、その当時の国際情勢において関係国間に妥協の道を探らざるを得ない戦略的理由があったことが影響していたことがわかる」と朝鮮半島の過去と現在を俯瞰している。

 前掲の著作によると、朝鮮半島とくに北朝鮮は王朝時代から、良質の無煙炭を輸出していた。鉄鉱石やタングステンなどの埋蔵量も豊富である。日本は一九三〇年代以降、満州(中国東北部)と朝鮮半島を地域経済圏として鉄道や電力、港湾のインフラ投資を行った。戦前の朝鮮半島の鉄道の総延長は六千四九七キロであり、そのうち北朝鮮地域が四千九キロを占める。軍事的、産業的に重要視したからである。現在の北朝鮮においても、主要な幹線となっている。

 日本が鴨緑江に建設した水豊水力発電所は当時、世界最大規模のコンクリートダムを有した。港湾施設では、羅津港に満州鉄道が直接乗り入れ日本とつなぐ代表的な港となった。

 日朝国交正常化と経済協力について、日本経済研究センターの李燦雨・

特任研究員は、日本が提供する「経済協力資金」を最大で一〇〇億ドルと試算し、そのうち四五億ドルが鉄道や道路、港湾などのインフラ整備に必要だとしている。農林水産業の開発と電力正常化の「支援性協力」は二〇億ドルである。

日本が戦後東南アジア諸国に対して賠償をするに際して、日本企業をからませた「ひも付き」援助と同様に、北朝鮮に経済援助をするかどうかは未知数である。米朝首脳会談によって北東アジアの経済情勢は激しく流動化しようとしている。

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