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経営者の気力の喪失

2018年3月3日

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政治経済情報誌・ELNEOS 3月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 「偉大な国家を滅ぼすものは、決して外面的な要因ではない。それは何よりも人間の心のなか、そして反映たる社会の風潮によって滅びるのである」

 京都大学名誉教授の中西輝政氏の代表作である『大英帝国衰亡史』は、ベニスの衰退期を生きた歴史家の言葉を引用したうえで「もし衰退が『人の心』、つまり精神的活力の枯渇に生じるものであるとしたら、それは具体的に『誰の』心、どのような人びとの『気力の喪失』に発するものなのかが問題となる」という。

「イギリスが生んだ二十世紀最大の古典学者ギルバート・マーリは、ギリシャ・ローマの大文明衰退の核心は『気力の喪失』以外はありえないことを力説している」

 「いつの時代、どこの国でも、国家を指導するエリート階層は存在する。

 繁栄するどの大国においても、こうしたエリートの有能さと、階層としての活力、さらに民衆側のそれに対する揺るがぬ信頼感がはっきりと存在した」と、中西氏は指摘する。

 エリート階層の「気力の喪失」が国家の衰亡をもたらすのである。「エリート」を経営者と言い換えれば、大企業が陥っている苦境が浮かび上がる。

 東芝の不正経理問題は、外部から会長職を迎えて、ガバナンスの強化を図ろうとしている。金属メーカーの子会社による不正検査・出荷問題は、次々と明らかになっている。

 広報パーソンはいかにして「衰亡」に抗し得るであろうか。

 創業者あるいは中興の祖の言動を改めて、組織のなかに思い出させることではないか。大企業の広報部門のなかで往々にしてその位置づけがあいまいである、社内報部門の課題である。

デジタル時代を迎えて、紙からネットの社内報に移行しつつある。このとこは、時宜にかなったコンテンツを社内の隅々まで一気に伝えられる環境ができあがった。

対外的な広報とともに、社内報は広報部門の二本柱である。社内が創業者の「気力」に溢れていなければ、社外からの攻撃に弱い組織となる。

 ソニーは二〇一八年三月期の決算予測において、二十年ぶりの最高益を成し遂げる見通しになった。「ものづくり魂」(井深大著、二〇〇五年)という「気力」の基盤に返ることができたというべきだろう。この著作は、創業者である井深ともうひとりの創業者の盛田昭夫が、ソニーの歴史を振り返るとともに、二十一世紀の課題について語り尽くした。

 盛田 ソニーの社員は、気がついたらソニーの社員だったという人はいないはずです。自分で選んだ会社である以上はたいせつにするのはあたりまえです。いやだったらいつでも辞められる。

 井深 いくら会長や社長が、声をからして愛社精神と叫んでみたところで、これは無理な話でね。要は一人ひとりの会社に対する気持ちだからね。

 盛田 人生というのは二度ないんですからね。自分で選んで就職して、ここで働くと決めた以上は、自分の一生を幸せにしていく努力をする必要がある。

 井深 自分で切り開いていかなきゃね。

 (この項了)

 

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