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終わりなき因果関係追究

2018年1月14日

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政治経済情報誌・ELNEOS 1月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

  東日本大震災による福島第一原子力発電所のメルトダウンがもたらした放射線が、住民の健康にどのような影響を与えたのか、まもなく七年近くが経過しようとしているのに、因果関係の追及は終結していない。

 とくに、事故当時一八歳以下の子どもたちを対象にした甲状腺健診によって、がん及びその疑いの患者が発見されている問題は、臨床医師ばかりではなく住民も含めて議論が続いている。

 企業や公的組織が不祥事を引き起こして、第三者委員会が設置され、その原因について追及する、という図式が一般的になっている。しかし、その因果関係は終わりなく追及しなければあらない場合が多いのではないか。危機管理の正面に立って、社会に対して説明責任を果たさなければならない、広報パーソンがこころしておかなければならない課題である。

 原発事故と健康被害についての問題に戻る。日本学術会議は二〇一七年秋に「東京電力福島第一発電所事故被災者のためのより良い健康管理と医療の提供に向けて」と題した報告書を発表した。このなかで、焦点の甲状腺がんの問題について次のような論点をまとめている。

 二〇一一年一〇月から〇五年四月までの先行検査期間で、受診者三〇万人中がんあるいは疑いのある患者は計一一六人、第二回目で二七万人中七一人、第三回目は一二万人中四人が発見された。甲状腺がんの罹患率は、五~九歳で一〇万人あたり〇・〇六人、一〇~一四歳では〇・三一人、一五~一九歳は一・三六人である。

 福島県の子どもの検診による発見率は、通常の罹患率を大きく上回る。原発事故による放射線との因果関係が問題である。論議は、因果関係があるとする説と、大規模な集団に対する精密な検査によって過剰に患者が見つかっているのであって、放射線の影響とは考えにくい、という説に大きく分かれる。日本学術会議の報告書は、全体として後者に傾いている。

 チェルノブイリ原子力発電所の事故後に、子どもの甲状腺がんが多発したのと比べると、外部線量が低い点をまずあげている。さらに、患部の病理組織学的な分析の結果、小児甲状腺がんに特徴的な変化は少なく、大半は成人型の遺伝子変異の分布パターンに類似していること、すなわちチェルノブイリ事故後にみられた甲状腺がんとはパターンがことなることをあげている。

 このシリーズでは、福島第一原発のメルトダウンから、企業と組織にかかわる危機管理のさまざまな局面を学んできた。放射線と健康被害の問題は、「終わりなき因果関係追究」という新たな教訓を読み取ることができる。

 こうした視点は、やはりジャーナリズムが本来持っているものである。NHKBS1スペシャル「原発事故7年目 甲状腺検査はいま」(二〇一七年一一月二六日)は、日本学術会議の「なお不確定な要因があることを考慮」の先を描きだしている。外部被ばくばかりではなく、飲食や呼吸による内部被ばくを推定しなければならないとする説を紹介するとともに、甲状腺がんの遺伝子の変異についてさらに、定期的な分析が必要だとする学者の意がだされている。チェルノブイリと同じパターンでないとしても、がんの進行のスピードが通常よりも早ために、別のパターンである可能性があるという。 

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