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大惨事と情報隠蔽 ②

2017年12月1日

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政治経済情報誌・ELNEOS 11月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

 神戸製鋼所が、アルミなどについて発注者の品質を下回る製品を不正に納品していた問題は、その製品が国内のみならずゼネラル・モーターズ(GM)の車体やボーイングの航空機にも使用されていたことが明らかになって、世界に波紋を投じている。

 日本製品の品質に対する不信を招き、神戸製鋼所のみならず、企業経営に深刻な打撃を与えるのは間違いない。 

 日本企業の広報部門において、同社は危機管理や情報公開の面で優れた、企業に与えられる経済広報センターの「企業広報賞」の部門賞を受賞したこともあって一目置かれていた。秘書広報部長が二〇〇四年度の「企業広報功労・奨励賞」を獲得したのである。広報パーソンを輩出している企業とも知られていた。それだけに、企業の広報パーソンにとっては今回の事件は衝撃だった。

 このシリーズでは、最新刊の『大惨事と情報隠蔽』(以下『大惨事』。ドミトリ・チェルノフ、ディディエ・ソネット著=草思社刊)を手掛かりとして、企業が大惨事に見舞われる原因を探ってきた。本書は日本を含む世界の企業の危機をについて、ケーススタディの形で論述を進めている。

 今回の神戸製鋼所による、製品の品質偽装が同社にもたらす大惨事の行方を示すのは、二〇一五年秋に米国環境保護庁(EPA)が摘発した、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼルエンジンの排出不正問題だろう。

 VWが環境当局のEPAとの間で総額一四七億ドルの賠償金を支払うことで和解した。この金額は米国が自動車メーカーに課した最高額である。VWは一連の罰金のために、銀行から数十億ドルを借り入れた。さらに、従業員六〇万人のうち三万人をリストラした。

 VWが陥った事態の背景について、『大惨事』は次のような要因をあげる。

■過去に同様の不正事件では少額の罰金を払えばそれですまされた

■“成功ありき”“悪い知らせには耳を貸さない”“やっつけ仕事”の企業文化

■経営や会社全体に対する監査役会の管理が甘かった

■内部統制が弱かった

『大惨事』は次のように経営陣の責任を追及する。

「VW上層部の不正操作への関わりについて、わたしたち著者の意見をここに記す。……『不正を知っていたのは数名のソフトウェア・エンジニア』だけだったというVWの主張は極めて疑わしい。これまでの情報隠蔽の事例を多数検証してきた経験にもとづけば、VW上層部は二〇〇〇年代半ばから不正操作を知っていた可能性が高く、VWの各ブランド車のエンジンに違法なソフトウェアを搭載することを非公式に認めていたと考えられる」

 神戸製鋼所の首脳陣は、記者会見において、不正は十年前からである、と断言していた。

 ところが、本稿執筆中の一〇月中旬に毎日新聞が、元社員らの証言に基づいて不正は四十年以上前から状態化していた事実を報じた。

 受注先の品質を下回る製品を出荷するにあたって「特別採用」略して「トクサイ」という用語が社内で一般的だったというのである。

 企業広報の分野でかつて輝いていた同社の広報部門は、企業の存亡の戦いの正面に立っている。

           (この項了)

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