ブログ

大惨事と情報隠蔽 ①

2017年10月13日

このエントリーをはてなブックマークに追加

政治経済情報誌・ELNEOS 10月号寄稿 ほまれもなく そしりもなく 「田部康喜」広報マンの攻防」

「一般的に、人生でもっとも成功するのは最良の情報を手にした人間である」

(ベンジャミン・ディズレーリ)

  古今東西の人物の箴言を要所に配しながら、世界的な危機管理の事例について分析した、最新刊の『大惨事と情報隠蔽』(ドミトリ・チェルノフ、ディディエ・ソネット著=橘明美、坂田雪子訳・草思社)は、原発事故から大規模なリコール、金融不祥事まで、隠蔽の共通性について示唆に富む。

 日本の大企業による危機管理が、世界のなかでどのような位置づけにあるのかが、はっきりとわかる。

 筆者のふたりは、チューリッヒ工科大学の「企業家リスク」講座の研究者である。原著は二〇一六年刊。日本語版のために、フォルックスワーゲンによる、ディーゼルエンジンの燃費偽装事件に関する論考が加えられた。

 福島第1原子力発電所のメルトダウンの大惨事がケーススタディとして取り上げられているのはいうまでもない。このほかに、日本企業がかかわった事件として、トヨタの大規模リコールとアクセルペダル問題、ソニーのバッテリー・リコール問題が並んでいる。

 北朝鮮による核、水爆と大陸間弾道弾の実験によって、地政学的危機が高まっている。東芝の半導体部門の売却先は、本稿執筆時点でも決まっておらず、経営実態の隠蔽の行方は混とんとしている。企業や官庁など組織の危機管理の前面に立っている広報パーソンは改めて「大惨事」と「隠蔽」について考えてみるときである。

 「罪もごまかしもたくらみも詐欺も悪も、すべて見えないところでひっそり生きているものだ」

 (ジョセフ・ピューリッツァー)

  ドミトリ・ チェルノフとディディエ・ソネットは情報隠蔽・歪曲の原因を分析する。ふたりは五点に絞りこむ。

  • 1 外部環境はどのように情報隠蔽を誘発するのか
  • 2 組織の目的・戦略・管理方法は情報隠蔽にどのようにかかわるのか
  • 3 危機の伝達経路の不足
  • 4 リスク評価と危機知識の管理
  • 5 管理職と従業員の個人特性

 外部環境のなかでは「政治・ビジネスの近視眼的傾向」をあげる。

 世界的な技術革新の流れはすさまじく、発電所や重工業、通信インフラなどの複雑なシステムは、初期計画段階の技術が中期、長期的にその技術が陳腐化していることが多い。

 また、グローバル化によって、投資機会が増えた投資家を引き留める競争が激化している。この競争に勝ち抜くためには、短期的な利益を確定するために限界的な領域に踏み込む。

 民主制のマイナス面である、政治家が次の選挙に勝ち抜くために短期の成果を上げる経済政策をとる。

 さらに、「国家安全保障」が外部環境として企業を隠蔽に追い込む。

 ある情報がこれにからむと、国民ばかりではなく、政府の組織内部に対してもその開示が厳しく制限される。「秘密主義が徹底されると、必要なときに情報が肝心の意思決定者に届かないことも起こりうる。組織内の多くの階層を経るような特殊な伝達経路では、緊急情報を迅速に伝達することは難しい」のである。

         (この項続く)

このエントリーをはてなブックマークに追加