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「日経ファースト」の真相

2016年8月13日

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ELNEOS 8月号 「ほまれもなく そしりもなく」 田部康喜 広報マンの攻防戦

 メディアが取り上げる経済記事について、日本経済新聞の報道が先行するつまり特ダネとなる「日経ファースト」について考えてみたい。

 ここでも、新聞記者出身である視点と、広報パーソンの視点のふたつを区別すると同時に、ふたつの視点が交錯するところに真相を求めたい。

 まず、特ダネとはなにか。一般的には、報道する事象がライバルに先行することをいう。

 世紀のスクープとなった、NHKによる、天皇陛下が生前譲位の意向を示されている報道が最近では群を抜いている。

 特ダネとは、このように情報をもたらしてくれた人物と、取材者が一対一の信頼感に基づいて、情報源を決して明らかにしない、と定義できる。

取材者に対して、チームのプレイングマネジャーであるキャップも、原稿を精査するデスクも原則として取材源が誰であるかは、聞かないものである。

 ところが、取材先が意図的に取材者に事案の詳細をレクチャーする、つまりリークする、その結果としてライバルに先行する場合がある。新聞記者時代に、私はこうした記事は、自分の基準として「特ダネ」とはカウントしない、と考えていた。

 ところが、そうではない、という考えもあるのだということも知っていた。

 ある日、同僚たちと会合を開いた際に、次のような発言があって、その場の空気がなんともいえぬ沈黙に包まれた。ある官庁の政策に関する記事の件であった。

「特ダネだったのに、デスクが一日寝かせたので、他紙に書かれてしまった」と。

 同僚の担当した官庁は複数社にリークしたのであろう。それでも、同僚は自分の記事を「特ダネ」という。リークは特ダネではない。

 ちょっと脇道に入って、官庁や企業はなぜリークをするのか。官庁ネタで多いのは、政府予算の概算要求が出そろう八月末にかけての時期が多い。

 予算獲得のために、与党の部会や財務省に説明する際に、大手紙の一面を飾った記事はそれなりの重みがあり、官僚が作った説明資料を簡にして要とする表現でまとめてあるので、予算折衝がやりやすい。

 それでは企業はなぜか。株式市場では、全国的なメディアふたつにその企業の情報が掲載あるいは放送された場合、その情報は公知のものとみなす。この基準に基づいて、企業の経営戦略からリークが発生する。

 経済報道において、経済専門紙である日経の優位性は、その人員の配置からライバルから卓越している。

 大手紙の流通担当がひとりあるいは複数にすぎないところに、消費産業部がある。日経に金融部があるのにたいして、他紙は証券と金融に複数の配置をしているにすぎない。

 ここに「日経ファースト」が生じる土壌がある。

 しかし、日経が取材の目的に定めた土俵が経済のすべてではない。日経の視点とは違った特ダネはたくさんある。こうした割り切りができない記者は、日経の背中を追うばかりで、その前に出られない。

          (この項続く)

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