ブログ

超低金利時代のシニアライフ 

2016年5月19日

このエントリーをはてなブックマークに追加

「幸福の経済学」が照らし出す不幸

フジサンケイビジネスアイ 高論卓説 寄稿。

分厚い週刊誌大の封筒が自宅に届いた。独立する前に働いていた、ベンチャー企業を含むITやソフトウェアの企業が加盟している「厚生年金基金」が解散する。厚生年金基金は企業年金を退職者に支給する。運用の資金は国の厚生年金を代行して運用する部分と、企業が拠出する部分からなっている。国の厚生年金の代行部分を返上した後に残った財産をどのようにするか、という加入者に対する確認書類である。

 私が加入していた厚生年基金の予定利回りは5.5%だった。超低金利時代に利回りを確保するのが困難になり、政府は平成26年4月の厚生年金法の改正に基づいて、基金の解散がしやすくした。選択肢は一時金としてもらうか、第1年金と名付ける残った財産を原資とする企業年金に移行するかである。いずれも、従来の年金よりも支給額は低い。

 厚生年金基金の数は、同年度末には444と10年前から243も減っている。企業年金連合会によると、企業年金の支給額(代行型)の平均は平成26年度末で約57万円。基金の解散はシニアにとって痛手である。

 経済学者の野口悠紀雄氏は、「金融政策の死」のなかで、「年金制度は長期にわたって存続する制度なので、金利と深い関係を持っている。年金額は金利の変化によって大きな影響を受けるし、金利について誤解が、制度に大きなひずみを与える」と、指摘する。「積み立て不足の原因は運用の失敗と言われることが多い。確かにそれも無視できないが、基本は、高すぎる利回り想定に基づく高すぎる給付水準である」。

 国民年金と厚生年金もまた「設計ミス」と、野口氏は断じる。昭和40年の予定利率は5.5%で、給与に対する厚生年金の平準保険料は6.9%、国民年金の平準保険料は403円だった。「このような低い保険料では制度を維持できないことがわかってきた。そこで厚生省は、制度改定ごとに保険料を引き上げ、給付額を切り下げてきた」。野口氏のいう「過去の誤りの訂正過程」は続き、シニアの生活設計を狂わせる。

 「幸福の経済学」の先駆者である、キャロル・グラハム氏らの研究によると、先進国ではおおむね、年代別の幸福度が40代半ばまでは低下して、その後は60歳以上にかけて幸福度が再びましていく「U字型」の傾向をたどる。ところが、日本では加齢とともに幸福度の下降に歯止めがかからない。日本の研究者たちはその原因の究明に窮しているようにみえる。一国の1人当たりのGDPが一定以上になると、その国の平均的な幸福の水準は伸びなくなる。これを「幸福のパラドックス」を経験した日本が、新たな課題に直面している。

 グラハム氏の著作「人々を豊かにするものは何か」を援用するならば、「人々は不確実性に適応するのが難しい」。超低金利時代はまさしくそれだ。不確実性は年金にとどまらず、生命保険の保険料の引き上げや預貯金の金利の引き下げなどにも及んできた。「幸福の経済学」は、英国などでは厚生政策を立案する基盤となっている。

このエントリーをはてなブックマークに追加