NHKスペシャル「新・映像の世紀」
ヒストリーチャンネル「ヒトラー追え」は亡命説に挑む
WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿 http://wedge.ismedia.jp/category/tv
「映像の世紀」といわれる20世紀は、映像技術の発明によって膨大な歴史的な資料を残した。歴史の真実に迫るのに、文書に加えて映像が加わった。
NHKスペシャル「新・映像の世紀」は、第1回「百年の悲劇はここから始まった」(10月24日)から毎月の放映で、全6回のシリーズが始まった。新たに発掘された映像によって、歴史の流れとそれに翻弄された個人に焦点を当てる。
CS放送のヒストリーチャンネルは、世界同時公開で「ヒトラーを追え」シリーズを11月24日から放映開始した。元連邦捜査官として犯罪者を追った経験者、ジャーナリストらが「調査報道」に取り組んだ。ヒトラーがベルリンの陥落時に自殺したのではなく、アルゼンチンに亡命した可能性である。
「新・映像の世紀」の第2回「グレートファミリー新たな支配者(11月29日」は、アメリカの資本主義を築き上げた企業とその家族の物語である。
ニューヨークのロックフェラービルの前で、巨大なクリスマスツリーに明かりが灯るシーンから、映像は始まる。80年前からの行事がなぜ起きたかは、作品のなかで解き明かされていく。
ロックフェラーは、石炭から石油革命の道をいち早く見抜いた。五大湖の周辺で発見された石油を掘削して、ひとヤマあてようとする人々が群がった。ロックフェラーは、掘削には手を出さずに、原油を精製するビジネスに乗り出した。優秀な科学者を雇い入れて、どんな不純物を含む原油でも精製する技術を確立した。それが世界標準であることを示すために、社名を「スタンダードオイル」とした。
金融の中心地である、ウォールストリートを牛耳ったのは、モルガン商会だった。アメリカが中央銀行を設立する1930年まで、その機能はモルガン商会が担っていた。ウォールストリートに看板を出さず、一般個人との取引はしないで、大企業との取引に専念した。
そのモルガンにカメラが殺到したのは、1912年4月のタイタニック号の沈没だった。運行会社が系列の会社であり、救命具の不足と金持ちを優先した救助、そして事前に多額の保険がかけられていたことが批判された。それでも、モルガンはいっこうに強気の姿勢を変えなかった。
大陸横断鉄道会社や、エジソンの発明よって生まれたゼネラル・エレクトリック(GE)、電話会社のベル、自動車製造会社のGMなど、モルガンの出資なくしては成長できなかった。
ロックフェラーの家族たちの団らん風景を映したフィルムが流れる。その子どもたちのなかに、世界最大の慈善団体であるロックフェラー財団を率いることになる、ロックフェラー・ジュニアがいる。
ジュニアは次のように語っていた。
「法皇や教皇、どんな国の王よりも仕事がおもしろい。なぜならば、わたしをどこからも排除することはできないからだ」と。
ロックフェラーやモルガンによって、資本主義はモンスターのように巨大に成長を遂げる。
アメリカの富に引き寄せられるようにして、膨大な移民がやってくる。その数は1920年からの10年間で400万人に達する。なかでも、革命後に迫害を受けたソ連のユダヤ人と、イタリア人が多かった。
旧ロシアの貴族の専属化粧士から、化粧品会社を起こして成功した、マックス・ファクターや、ハリウッドの活躍の場を得たカーク・ダグラス、ポール・ニューマンら成功者の数は少ない。勃興する自動車産業などに移民たちは、その職場を求めた。
アメリカの繁栄が永遠であるかのようにみえた瞬間に、1924年10月24日、株式市場を大暴落が襲う。「暗黒の木曜日」である。
中西部の穀物地帯では、20年代の10年に幾度も砂嵐が穀物を枯らして、350万にも農民たちが当て所もない西部への旅にでた。
ロックフェラー・ジュニアは、ロックフェラービルを建設することによって、7万人の雇用を創出した。冒頭のクリスマスツリーは、これに対するお礼として労働者たちが始めたものであった。
モルガンは大暴落前に株式を売り抜け、ロックフェラーは底値で買い上げてのちに株式が上昇して損を取り戻していたことがわかる。
「グレートファミリー」が慈善家のイメージの裏で、なにをやっていたのか。モルガンに対する議会証言の場面などを通じて、映像は克明に映し出していた。
CS放送のヒステリーチャンネルの「ヒトラーを追え」は、まず旧ソ連時代から保存されていたヒトラーの遺体の頭蓋骨をNA判定したところ、男性ではなく30歳代の女性であることがわかる。
さらに、ナチスの幹部の多くが亡命したアルゼンチンンのジャングルのなかに、石組みのかつて瀟洒であったであろう建物3棟の発掘作業に迫る。豪華な風呂や部屋、ナチス時代の金貨、そして胃痛に苦しめられていたヒトラーが常備薬としていた、胃薬が大量に発見される。
ベルリンの首相公邸の地下には、ヒトラーが世界の首都にふさわしい都市建設をするために縦横にはりめぐらされた地下道が三層にもわたって延びていたこともわかってきた。ヒトラーの脱出は可能だった。
「映像の世紀」の謎が、解明されるのはこれからだ。