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街を変える新業態

2015年12月22日

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モノと書籍の販売が融合する

  フジサンケイビジネスアイ 高論卓説 寄稿。

 東京・渋谷のスクランブル交差点で、自撮棒で撮影する外国人観光客の波をすり抜けながら、公園通りに向かう。左手に折れれば代々木公園につながり、その先には明治神宮、表参道に抜けていく。

 公園通りの入り口のランドマークである、マルイが19日にリニューアルして「渋谷モディ」という新しい業態が姿を現す。店頭の飾りつけはすでにクリスマス一色である。街にはホワイト・クリスマスの曲が流れている。

 マルイは今後、ショッピングセンターの「マルイ」と、モノだけではない学びや体験を提供する「モディ」のふたつのブランドを持つことになる、という。

 新店の9階ある売り場のなかで、5階から7階までを「ブック&カルチャー」が占める。フロアごとにテーマと決めて、それに関する書籍や音楽、映像の関連商品を販売する。カフェがそれぞれの階に設けられる。販促のイベントやセミナーなども開いていくという。

 公園通りは1970年代から80年代にかけて、若者たちをひきつけた街である。マルイは「月賦」という言葉を「クレジット」と変えて、日本で初めてクレジットカードを発行した。丸井の「赤いカード」である。西武百貨店の渋谷店やパルコも、モノの消費の時代の寵児だった。

 新しい業態の出現によって、街の変化がはっきりとみえる。いかにして日本の都市は変貌を遂げるのか。建築家の槙文彦氏は「見えがくれする都市」(鹿島出版会)のなかで、「都市の姿に意外性、新鮮さ、変化、アイロニィを与え、都市を興味あるものとしている」要因として、「多数の主体の意図と思わくの働きかけが強い」と述べている。

 高度経済成長の尻尾をひきずった団塊の世代が、渋谷から伸びる私鉄沿線に住宅を購入して、モノに対する執着がかつての渋谷の繁栄を産み落とした。「さとり世代」と呼ばれる20歳代半ばにかけてと、それに先行する「草食世代」の30歳代半ばまでの若者たちは、都心に回帰して、モノの消費にはそのきっかとなる物語を求める。

 表参道に今秋、海外旅行会社のH.I.Sが新たに開いたカフェと書籍の販売を兼ねた店舗を訪ねた。入口にカフェがあり、コヒーを買い求めて、地下に下る。そこには地域別の書籍が並ぶ。来店者は自由に本を手に取って読める。

 書籍は旅行案内のガイドブックから、その土地を訪れた作家によるエッセイ、写真集など多岐にわたっている。そして、もう一階下ると旅行の相談窓口がある。

 渋谷と東横線自由が丘駅、田園都市線二子玉川駅の3点を結んだ地域をいま、「プラチナ・トライアングル」と呼ぶ。二子玉川駅に隣接する商業施設には、カルチャー・コンビニエンス・クラブ(蔦屋)が、電化製品とソファなどの家具と書籍を販売する新しい業態が、今春にオープンした。

 江戸城から見て南西に当たる「城南地区」に、若い女性や家族層が増えている。東京の重心が西に移ろうとしているとき、街はさらに装いを変えていくことだろう。

 

 

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