ELNEOS 12月号 「ほまれもなく そしりもなく」 田部康喜 広報マンの攻防戦
東芝がいわゆる「不適切会計問題」ついて、第三者委員会による調査報告書を公表したのは十一月初旬のことである。問題が発覚してから実に八カ月近い月日が経過した。
今回の問題については、トップの経営姿勢や会計基準の順守、情報の適宜開示原則などのさまざまな面から論じられてきた。
ここでは、上場企業のなかに、閉ざされた空間が存在していた事実と、それがひとり東芝に限らないのではないか、という視点から調査報告書を改めて熟読してみたい。
不祥事を起こした企業の調査委員会のほとんどが、裁判官や検察官出身者を委員長に据えて、社内の聞き取り調査にあたるのは、弁護士であること多い。
東芝の調査報告書もその例に漏れない。そもそも委員会の目的が「東芝の現旧役員らの法的責任の有無及び損害賠償請求の当否に関する調査・検討」をすることにあった。
しかし、報告書の淡々とした法的な表現を拭い去ってみれば、そこには経営トップの利益至上主義の生々しい証言が現れてくる。
東芝は調査報告書の公表に先立って、歴代の社長三人を含む計五人の旧役員に対して、三億円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
パソコン事業畑を歩んで三代前の社長に就任した西田厚聡氏の責任は、パソコン部品をОDM(委託者のブランドで販売される製品を生産すること、または生産するメーカー)先の台湾企業に高値で売ることによって、一時的には利益を計上できるが、製品の買い取りはいずれ、部品の価格には割りの合わない低い価格で買わざるを得なくなる、会計処理を推進したことにある。「Buy-Sell」という商習慣である。社内では「借金」と呼ばれていた。
二〇〇八年十二月二十二日の社長月例会において、第三四半期におけるPC部門の営業利益が一八四億円の赤字になるという報告に対して、西田氏は次のように言い放った。
「こんな数字はずかしくて(一月に)公表できない。
同氏が退任した直後の二〇〇九年第一四半期には、「Buy-Sell」によってかさ上げされた利益は累計で三一三億円にのぼった。
前社長の田中久雄氏は就任直後の二〇一三年九月十三日、財務担当の取締役兼代表執行役副社長を「極秘の相談がある」として、利益のかさ上げを相談した。
デジタル関係の子会社の第二四半期の決算について「市場の期待値を考えると」と前置きして、前期の赤字幅を半減させることを打診している。
「そこで相談です。これまでの方針とは少し異なりますが、少しバイセル借金(Buy-Sell)を増やして」と。
経営者が順法精神に則って「善管注意義務」を担うことに明らかに反する、と報告書が指摘するのは当然である。経営トップを中心として、世間の常識から逸脱した閉ざされた空間があったことに驚かされる。
そうした空間がなぜできたのか、どうすればできないようにできるのか。メディアという社会の風を企業に吹き込む、役割を担う広報パーソンの大きな課題である。