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「地方政府」の危機管理

2015年11月5日

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  ELNEOS 11月号  「ほまれもなく そしりもなく」 田部康喜 広報マンの攻防戦

 関東・東北水害は「地方政府」の危機管理と広報体制対して警告を鳴らした。ここではまず、「地方政府」の名称の意味である。

 日本国憲法は連合軍最高司令官総司令部(GHQ)の原案をもとに、日本が制定したものである。「戦力放棄」は、当時の芦田均首相が主張して盛り込まれたことなど、成立に関する歴史的な論議は尽きない。

 それを脇に置いて、重要なことは、日本国憲法が第八章で掲げている「地方自治」である。

英文の日本国憲法をみると、「LOCAL SELF-GOVERNMENT」である。   世界の民主主義国では「地方政府」が標準である。国連など各種統計のなかで、「LOCAL GOVERNMENT」の表記をみるとき、日本の地方自治体をイメージできない人が意外に多い。

戦前の旧内務省が地方を戦後も掌握したい意図が、翻訳のカゲに隠れているのではないか。言葉は物事の実態を縛る。「地方政府」といったときに、その責任は中央政府の単なる出先でも、旧自治省の指導監督を受けているのではなく、主体的な行動が求められる。

今回の水害では、常総市の批判勧告が遅れたばかりか、鬼怒川があふれる方向に市民を誘導した。さらに、市の災害発生時の被害予測を示す「ハザードマップ」の範囲のなかに、市庁舎を建設した結果として、庁舎が水没するとともに、非常用電源が機能しなくなり、市役所は危機管理能力を失った。

常総市のツイッターは九月九日午後九時二三分に、次のようにつぶやいた。

「鬼怒川が三坂町内において、決壊しました。鬼怒川東側の市民の方は、早急に鬼怒川西側に避難してください」

 ところが、堤防が決壊したのは一〇日午後〇時五〇分ごろ。三坂町の二つの地域からは、鬼怒川の水位が上昇しているという情報が市役所に寄せられたので、午前一〇時半には避難指示を出していた。しかし、決壊した地点から一番近い地区にはだしていなかった。

 危機における情報の錯綜と、それを的確に判断する体制がまったくなかったことを物語る。

 国土交通省による、今回の豪雨被害と普及状況に関する一〇月五日付の報告書によれば、統計期間が一〇年以上の観測地点のうち、一六地点で、最大二四時間の降水量が観測史上一位の値を更新した。常総市はこれに含まれない。死者は八名で、うち二名が常総市である。

「地方政府」の自覚なき市町は常総市にとどまらない。東京新聞の一〇月一〇日付朝刊によると、利根川水系の主要な河川の流域にある一都五県(東京、千葉、埼玉、茨城、群馬)の九市町は大規模な水害が発生すると、庁舎が浸水して、非常用電源設備まで使用できなくなることがわかった、としている。千葉県松戸市、埼玉県行田市など、東京のベッドタウンが含まれている。

 東京都は首都直下型地震に、都民が備える食糧の備蓄や、避難所の暮らし方などをまとめた「東京防災」と名付けた冊子を七〇〇万部用意して各戸に配り始めた。そこには、「地方政府」の意気込みが感じられる。

 

 

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