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NHKドラマ10「デザイナーベイビー」 黒木メイサが妊婦の刑事役に挑む

2015年10月16日

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生殖医療の発達がもたらすサスペンス

 WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿    http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 体外受精を日本で初めて、1983年に成功させた東北大学名誉教授の鈴木雅洲氏をインタビューしたことがある。東北大学を退官後に専門のクリニックを開いた80年代末のことである。

  「鈴木先生は、命が誕生するという神の領域に入られたとはお考えになりませんか」

 鈴木氏の答えはいまも鮮明である。

 「神の領域があるとすれば、受胎しても生まれる子どもと、流産などによって生を受けなかった子どもがいったいどうして分かれるのか、ではないでしょうか」

  生殖医学と遺伝子医学の進歩によって、人間はさらに生命の領域に踏み込もうとしている。

  「デザイナーベイビー」である。受精卵の段階で、遺伝子操作を行って、父母が望むような外見や知力を持たせる技術である。

 NHKドラマ10「デザイナーベイビー」(毎週火曜)は、産婦人科の医師で作家の岡井崇の原作のドラマ化である。医療現場を舞台にしたサスペンスに、黒木メイサが挑む。

 速水悠里(黒木メイサ)は、警視庁捜査一課員だったが、妊娠8カ月となっていったんは庶務課に移動していた。しかし、生殖医療を得意とする城南大学附属病院の産婦人科で、乳児誘拐事件が起きたことから、特殊犯罪捜査係に呼び戻される。

 誘拐されたのは、ノーベル賞候補といわれる物理工学博士の近森博(池内万作)と、陸上競技の元トップアスリートの優子(安達祐実)のノゾミである。

 捜査は当初、病院内の権力闘争的な人間関係に絞られた。産婦人科の正教授である須佐美誠二郎(渡部篤郎)が、まず疑われる。

産婦人科の主導権をめぐって、ライバルの特任教授の崎山典彦(渡辺いっけい)が、プロジェクトのリーダーになったことに不満を抱いているのではないか、という疑惑である。

 須佐美の疑いは、その周辺を洗うことによって晴れる。彼によって、不妊治療をほどこされ、いったんは妊娠に成功するが、流産してしまった岸田トモ(安藤玉恵)と夫の裕也(淵上泰史)が犯人として浮上する。

 職場の運送会社で事情を聴いた速水は、裕也が同僚に子ども流産に同情されているばかりか、親しみをもって付き合っていたことを知って、捜査陣が想定している凶悪な犯人像を改める。

 しかも、裕也が職場に戻ってくる場面に直面する。相棒の後輩である若手刑事の土橋福助(渡辺大和)が、手柄に走って裕也を追い、取り逃がす。

 ドラマのホームページで、「スピンオフ動画『刑事・土橋福助』」が連続してアップされている。こちらは、土橋をどう育てるかの上司とのやりとりが2分間のコントとなって、楽しめる。

 裕也はついに、身代金として2000万円を要求して、自分の子どもが流産したことによって怨みを抱く須佐美(渡部篤郎)に新宿駅の西口に来るように指示するのだった。

 謎めいた表情が似合う黒木メイサは、サスペンスに向いていると思う。黒木の周囲を固める俳優たちが、個性派ぞろいで彼女の魅力を引き立たせている。

 誘拐された乳児の母親役の安達祐美は、「家なき子」(日本テレビ・1994年)で、「同情するならカネをくれ!」の名セリフを残して、天才子役ぶりをいかんなく発揮したが、いまでは舞台でも活躍する名脇役である。生殖医療にすがり、そして我が子を奪われる母親の演技はみるべきものがある。

 速水の先輩刑事である、西室義一(手塚とおる)は独特のマスクと声音で癖のある役でおなじみである。

 そして、捜査の指揮をとるエリートの警視庁捜査一課の管理官・与那国令子役の松下由樹である。

 新宿駅に西口に各所に配した部下たちに与那国は次々と指示を出す。しかし、犯人の裕也は現れない。長時間を経て、彼女は現場から部下たちを引き上げる。

 速水(黒木メイサ)はそれが誤りだと瞬間的に判断する。しかし、上司の命令には逆らえない。

捜査陣が現場から引き上げたのを待っていたかのように、裕也は須佐美から2000万円を持って逃走する。

 与那国は、速水に聞く。

「裕也はどうしようとしているのか。そして子どもは生きているのか」と。

速水は答える。

「裕也はひとりで行動していると思う。そして、子どもは妻のトモが連れている」

 与那国はさらに問う。

「なぜか」

「裕也は職場にひとりで、戻ろうとしていた。このままではひょっとすると……」

  裕也は、捜査陣に追い詰められて掘割に身を投げる。自殺を図ったのである。意識不明のまま病院に収容される。

  そして、病院にかかってきたトモが、手元にいる乳児の泣き止まないのに困り果てている電話を受けた、速水は会話を長引かせて、捜査陣はその居所を発見する。

  病院に連れ帰った乳児をみて、母親の優子は叫ぶ。

  「私の子どもじゃあない」と。

 医療ドラマの新しい試みは、最先端の生殖医療を扱いながら、難しい用語も登場人物たちによってわかりやすく観客に伝えられている。

 そして、速水(黒木メイサ)が事件を解くカギは、生殖医療が行き着こうとしている、デザイナーベイビーにからむ人間たちの功名心にあるのだろう。

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