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日テレ「デスノート」が描く諦めと焦燥

2015年8月22日

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世界の若者の心をなぜとらえるのか

窪田正孝のキラと、山崎賢人のLの戦いが始まる

 WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿

 世界的に若者の間で知られている漫画「DEATH NOTE」が、日本テレビ日曜ドラマシリーズで始まった(第1回・7月5日)。

  主人公の夜神月(やがみ・ライト、窪田正孝)は、大学生で地元の区役所の職員を目指している。平凡に淡々と流れる人生を望んでいた。父親の総一郎(松重豊)は刑事である。母は幼い時になくなり、高校生の妹の粧裕(さゆ・藤原令子)と3人暮らしである。

 「努力をしても、カネをつぎ込んでも、人生は変わらない」とつぶやく人生観の持ち主だった。

  原作は2003年から2年半余りにわたって少年漫画誌に連載された。海外でも翻訳本が出ている。

  この作品がいったなぜ、世界の若者の心をとらえているのだろうか。ドラマは、原作の登場人物の性格を変え、また新たな登場人物を造形しているようである。

 主人公のライトが歩む時間と出来事の数々が、若者のいまを描いていくのだろう。

  主人公役の窪田正孝は、「Nのために」(TBS)や「アルジャーノンに花束を」(同)などの最新作など、青春群像を描いたドラマのなかで抜きんでた演技をみせる若手俳優である。「デスノート」でもまた、窪田の演技に魅せられる。

  ライトのバイト先の居酒屋に現れた、高校時代の同級生の不良青年が「デスノート」の最初の標的となった。バイクに乗ったその不良青年に、友人とともに路上の脇にはじき飛ばされそうになったうえに、現金30万円と引き換えを条件とし携帯電話を奪われた。

  ひとり帰宅を急ぐライトの頭上を、死神のリュークが羽ばたきながら、「デスノート」を落としていく。自宅に持ち帰って、仕様書を読むと、その人物の顔を思い浮かべながら名前を書くと、40秒後に心臓麻痺によって死ぬというのである。その後、ライトは詳細にその仕様書を読むと、死因と、死亡時刻も設定できることがわかってくる。

  半信半疑で、さきほど強請られたばかりの不良青年の名前を書いた。翌日、自宅にライトの携帯を持ってきた警察官から、彼が事故で死んだことを告げられる。葬儀を遠くで眺めていると、参列者の会話から、死因が心臓麻痺であることを知る。

  ライトが「デスノート」を使ったのは、父親が過去に捕まえた殺人犯が仮出所後に、母子を人質にとってたてこもった事件である。犯人の名前を書くと、不良青年と同様に心臓麻痺で死に、人質になった母と子どもの身代わりになった父親は無事に救出される。

  ふたりの人間を殺してしまうことになったライトは、苦悩のどん底に落ちてビルの屋上から飛び降りて、自殺を図ろうとする。

 そこに死神・リュークが現れる。

「デスノートを使えば大金持ちになることだってできる」

 デスノートをビルから投げ捨てるライトに向かってこういう。

「もし殺人犯がノートを手に入れたらどうなる?」

  ライトは、凶悪な犯罪に手を染めた、人間を次々にデスノートに名前を書くことによって、殺していく。

  荒唐無稽ともいえるストーリーと、CGによって画面を躍る死神との対話という設定にもかかわらず、ドラマに引き込まれるのはなぜなのだろうか。

 それは、この物語が世界の若者に受け入れられる、理由の一端を示しているようである。

  世界経済は右肩上がりの時代はとうに過ぎて、主要国と欧州中央銀行による流動性の確保によって、かろうじて経済崩壊をまぬがれているようだ。ギリシャをはじめとする経済破たんのなかで、失業に苦しむ若者たちの姿は、ひとりギリシャだけではない。

  若者たちには、切り拓くべき地平は見えてこない。過去を美化するのは間違っているだろう。しかし、彼らの閉塞状況はいま、戦後の歴史のなかで最も過酷ではないのか。

 金融ビジネスのなかで、カネの流れを手中に入れ、起業によって自己実現できる若者は、一握りに過ぎない。

  諦めのなかで、ジリジリとした焦燥感に焼かれるような気持ちでいるのではないのか。現代の青年たちは。

  ライトは50人以上もの人間をデスノートのよって、殺していく。彼の前に立ちはだかるのは、世界の未解決事件に挑むL(山崎賢人)である。ライトの殺人をあばき、ライトを追いつめていく。

  Lとライトの戦いは、正義と悪の戦いとして描かれてはいない。そこにまた、現代の若者たちの苦悩があるのではないか。

  正義とはなにか。社会は正義によって運営されているのか。若者たちを取り巻く環境は、単純にその答えをだせそうにもない。

  ライトとLの戦いを上から眺めるようにして、謎の美少女ニア(優希美青)が登場する。どちらが勝つのか楽しんでいるようである。

  ニア役の優希は、朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(NHK)のご当地タレントのユニット・GMTの一員だった。その後、ドラマと映画の出演が続いている。

  ドラマは、この3人の視点が絡み合って、重層的に若者たちの希望と挫折の物語が綴られていくのだろう。

  父親ながら刑事として、大量殺人事件の犯人としてライトを追っていく、松重豊の渋い演技と、妹役の藤原令子の可憐さも見どころになる。

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