日テレ「花咲舞が黙っていない」は続編も好評
テレ朝「エイジハラスメント」、フジ「リスクの神様」……
WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿
「お言葉を返すようですが……」。東京第一銀行の内部不正を調査する臨店班の活躍を描く「花咲舞が黙っていない」シリーズが夏ドラマで再登場して、視聴率も一人勝ちの状態である。主人公の花咲(杏)の決め台詞が今回も「お約束」である。
帝都物産の新人女性社員の吉井英美里(武井咲)が、総務部員となって、社内のハラスメントと戦う「エイジハラスメント」も、「花咲」を追走している。こちらのお約束は、英美里が握り拳をぐっと固めて「テメェ、五寸釘ぶちこむぞ!」とつぶやいて、理不尽な上司らに挑む。
企業ドラマは、その内部に観客の視点を誘う。表面的には知っているようで、実ははっきりとはわかない企業の実態を見せていく。
ドラマは、普段は知りえない人々の喜怒哀楽を見せてくれる。そこには、事実の風刺という「戯画」(caricature)がある。
「花咲」第4話(7月29日)は、町田支店の融資課の女性行員である、前原美樹(中越典子)が謎のストーカーにつきまとわれている、という事件である。自宅のマンションに忍び込んだ形跡もあった。
支店長の春日直道(山田純大)と、融資課長の小見山巧(渡辺いっけい)が事なかれ主義で、臨店班の相馬健(上川隆也)と舞(杏)の調査にも非協力的である。
相馬と舞は、美樹と相談したうえで、帰宅する彼女の跡をつける。マスクで顔を隠した男を取り押さえてみれば、融資課の後輩だった。美樹にあこがれをもった末の行動だったが、自宅に侵入したことは否定する。
美樹は支店が融資して、数億円の負債を抱えて倒産した企業の調査を内々にしていた。自宅に持ってきていたその企業のファイルの一部がなくなっていることに、臨店の相馬は気づく。それは、振込先の一覧だった。
相馬と舞は徹夜で、本店のデータベースからその企業の振り込み実績を一点一点、確認して、ついに不審な振り込み500万円にたどり着く。それは、融資課長の小見山の妻が経営している幽霊会社だった。企業の倒産自体が、小見山と経営者が示し合わせた計画倒産だったことがわかる。振り込みはその謝礼である。
舞の追及に小見山は、白状する。しかし、こう抗弁する。
「銀行のためにどのくらい働いて、どのくらい利益をあげたかわかっているか。それなのに、同期に出世で抜かれて、支店長にもなれずに」と。
舞の決め台詞があって。ストーカーを装った隠ぺい工作に対して、「人間としてやってはいけないことです」と。
現代の企業では、ドラマのように上司がストーカー行為に対して、事なかれ主義を貫くのは問題視される。銀行の内部で支店の融資課長が、親族の幽霊会社に振り込みを誘導する事件は、ちょっと考えにくい。
しかし、ドラマには、企業の官僚体質と出世競争を描くには、こうした「戯画」は必要である。観客もそれをわかったうえで、銀行の内部をのぞいた気分になると思う。
「エイジ」第4話(7月30日)は、海外勤務から花形の繊維1課長に就任した、小田みどり(森口瑤子)が巻き起こすハラスメント騒動に、英美里が立ち向かう。
小田は、一般職を徹底的に差別する。総合職にも容赦がない。「成果主義」の権現である。耐えかねたふたりの一般職が、小田のパソコンを隠す事態となる。
英美里は上司の総務課長の大沢百合子(稲森いずみ)に相談したうえで、小田に知られないように一般職からパソコンを取り戻そうとする。英美里に土下座を要求するふたりに対して、ヒールを脱いでひざまずく。「これも給料のうちですから」と。
小田のハラスメントは止まない。
英美里の決め台詞あって、小田にいう。
「あなたは優秀な課長だと思っているけれど、どこの会社にもいるレベルです。部下を成長させられない課長なんて最低です」と。
毎回繰り広げられるハラスメントの数々は、現代の企業では表面的には抑えられて、水面下に潜んでいるようである。ハラスメントは罰せられるのが常識である。
「エイジ」の戯画は、日本企業の内部に潜む根深いハラスメントを明らかにしている。
「戯画」ならよいが、「偽画」(fake)は、企業ドラマの本質を傷つける。ふたつの違いはなかなか難しいが。
フジテレビ「リスクの神様」は、米国でもリスク管理の第一人者となった、西行寺智(堤真一)と、彼の部下となった神狩かおり(戸田恵梨香)の物語である。
「偽画」がちらついて、ストーリーに深く入れないことを述べる前に、日本を代表する俳優である堤と戸田の魅力にひかれて毎回見ていることを告白しなければならない。
そのうえで、自走式掃除機が火災を起こしたふたつの案件の解決のために、ひとつは使っていたクリーニング店に建て替え費用と、息子の就職を世話する条件をだしたことと、ふたつ目のケースでは、主婦に現金を渡したうえに、浮気の証拠写真を渡している。
企業の常識からすると、これはリスク管理ではなく、かえってリスクを高めることである。
と、正面切って反発するのも、観客としては大人気ないのかもしれない。