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学園ドラマのスター・土屋太鳳の成長の物語

2015年5月24日

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NHK連続テレビ小説「まれ」

スイーツが作り出す青春の未来を描く

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿

 希(まれ・土屋太鳳)は忙しい高校3年生である。石川県輪島市の海辺のかつては村であった、外浦地区の各所に備えられたスピーカーから早朝、その日の天候や海の状態などを告げる。

 走ってかけつける先は、母の津村藍子(常盤貴子)と弟の一徹(葉山奨之)と一緒に間借りしている、桶作元治(田中泯)、文(田中裕子)の家である。弟とともに文を手伝って、野菜を収穫する。その野菜を輪島の朝市で母と売る。

 そして学校である。放課後も市の一角にある喫茶コーナーでアルバイトをする。

  NHK連続テレビ小説「まれ」は、数々の事業に失敗した父の津村徹(大泉洋)が、自己破産をして、縁もゆかりもない外浦村に引っ越してくるシーンから、物語は始まる。

  映画やドラマに広げれば、土屋太鳳は、学園を舞台にした物語によってスタートなった、美少女たちの系譜に連なる。「狙われた学園」(1981年)の薬師丸ひろ子であり、「時をかける少女」(1983年)の原田知世である。「桐島、部活やめるってよ」(2012年)の橋本愛も。

 連続テレビ小説「あまちゃん」のコンビである橋本と、能年玲奈は、「告白」(2010年)にも登場している。

  土屋太鳳は、テレビ東京の学園ドラマ「鈴木先生」(2011年)と、同名の映画化作(2013年)では、長谷川博己が演じる鈴木先生が恋愛感情と妄想の対象となる少女を演じた。「まれ」の放送開始にあたって、再放送された「真夜中のパン屋さん」(2013年)では、深夜営業のパン屋に住み着く謎の高校生を演じた。

脇役ではあるが、黒沢清監督の「トウキョウソナタ」(2008年)の中学生役も忘れがたい。リストラされた父親が自殺をして残される少女である。

 これまでの役柄をみると、謎を秘めていたり、影を帯びていたりして、懸命に生きようとしながらもどこか息苦しさを感じさせる役どころが多かったように思う。

 希の明るさといったらどうか。輪島が望む美しい日本海の波が日の光を反射して輝くようである。美少女は娘役から大人の女性に脱皮しなければならない。20歳を迎えた土屋太鳳が取り組む希は、女優としての成長をかけているのだろう。

 第1週の「魔女姫バースデーケーキ」(3月30日~4月4日)によって、小学校時代の希と家族、そして外浦地区に移住して出会う人々がいきいきと描かれる。この週の最終日にいたって、高校生の希が登場し、小学校時代の同級生たちも成長した姿をみせる。

 希も同級生たちも、小学校時代の子役の表情を対比してみせるのであるが、まるでそれが実際に年齢を重ねたようにみえた。これもまた過去の映画「二十四の瞳」(1954年)を思わせる。学園ドラマというジャンルがそうであるように、映像の世紀といわれる20世紀の映画とドラマは、作り手によってその糸が紡ぎ継がれていくのである。

 希と父の徹は、誕生日が同じである。菓子作りが好きでパティシエになることを夢見ていた希は、バースデーケーキを作る。ところが、地区の祭りの準備の会合ですっかりよってしまった徹がよろけて、希がみせようとしていたケーキが畳に落ちて崩れてしまう。

 「わたしは夢が大嫌いです。人生は地道にこつこつと」

 小学校で課題の「夢」という作文にそう書いて、読み上げる希。公務員になるのが将来の人生と決めた。

 大きな夢を追っては失敗して、家族に迷惑をかける父をみてきたからである。

 ひとたびは反省して、地道に働くことを誓った徹であったが、再び上京して希が高校生になっても帰ってこない。

 どこにもないような破天荒な家族にみえて、妻の藍子は徹に対する愛を失ってはいないようである。

 第2週「告白シュークリーム」(4月6日~11日)に至って、徹が帰ってくる。ここでも、希が作ったクッキーやシュークリームが登場する。

 パティシエに向かって進もうとする希の未来を暗示している。番組宣伝では、すっかりその方向性を明らかにしている。ドラマの展開によほどの自信があるに違いない。

「まれ」の放映は、BSプレミアムでは、早朝の7時30分からである。その直前に、「あまちゃん」の再放送がある。

 海辺の地区に住む希といい、輪島編の後にパティシエの修行にでる首都圏編があることといい、「あまちゃん」の展開を彷彿(ほうふつ)とさせる。冒頭で紹介したアナウンスシーンからして、天野アキが住む袖が浜の情景を思い浮かばせる。

 ドラマで登場する菓子は、東京・自由が丘で店舗を構える辻口博啓による。世界的なパティシエの辻口はドラマの舞台となっている石川県出身である。その菓子の数々はドラマに彩(いろどり)をつけていくことだろう。

 映画やドラマのスタッフに、フードコーディネーターの文字が大きくエンドロールに出るのは最近のことではないだろうか。

 フィンランドを舞台にした映画「かもめ食堂」(2006年)で、鮭の定食やおにぎりなどをアレンジした飯島奈美。新宿が舞台の「深夜食堂」(2009年)の親しみやすい和食も手掛けている。

 希がどんなスイーツを作り上げるのか。それには、彼女の成長の物語が重なっていくのだろう。

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