WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿。
深キョンは高校教師 “ビヨンセ”渡辺直美は旅行プランナー
「好きなら私を抱いて」
コンテンポラリーダンサーの平慶(たいら・けい=亀梨和也)から告白された、高校の科学教師の西原結唯(深田恭子)はコロセウムを思わせる夜の建物の一角で、唇を合わせると、そうつぶやくのだった。
ふたりが出会ったのはこれがわずか3回目である。夕陽を浴びる校舎の2階の渡り廊下で、両手と組んで伸びをする結唯を、たまたま自転車で通りかかった慶が仰ぎ見た。
結唯はポケットから飴玉を取り出して、口に入れる。
それからしばらくたった雨の夕方、生徒たちの下校時間に校門を入った慶は、結唯に歩み寄って、そっと手に自分の名前と携帯電話番号を記した紙片を渡すのだった。
インターネットの検索によって、結唯は慶が海外のコンクールで賞を獲得したこともある著名なダンサーであることを知る。
いったいどうして自分に紙片を渡したのか、結唯は分からない。つきあいたいという慶の申し込みを一度は断った彼女だったが、その思いは心の隅に引っかかったままで、授業にも身が入らない。
二度目に出会ったときに、慶が求愛のために演じるコンテンポラリーダンスが美しい。跳躍してからだを回転したかと思えば、開脚して両手はなにかを抱きしめるように組み合わされる。最後は結唯に救いを求めるように右手を差し出すのだった。
「どうして私なの?誰かと間違っているんじゃないの?」
「君と一緒にいれば、自分が変われるんじゃないかと思うんだよ」
テレビ朝日「セカンドラブ」(金曜日よる11時15分)の第1回(2月6日)を観た。脚本は大石静。NHK「セカンドバージン」(2010年)鈴木京香の、TBS「家族狩り」(2014年)では松雪泰子の複雑な女性心理を演じる、新しい才能を引き出した。
深キョンこと深田恭子が大人の女優に「羽化」する予感のする、今回のドラマである。
世界各地のシアターのオーディションに落ち続けている、慶は港湾荷役のアルバイトなどをしながら夢を追いかけている。
校舎の渡り廊下に立つ結唯が、一瞬の風にあおられて化学教師の白衣の裾が開いて、紺色のギャザースカートが夕陽に浮かび上がる。
就職氷河期の経験者である結唯は、いくつもの企業の入社試験を落ちて、最後に受かったのが県立高校の教職であった。
独身のままに30歳を超えて、これからの人生の目標が見いだせない。
その空白感を埋めようとするように、同僚の国語教師・高柳太郎(生瀬勝久)と不倫関係を続けている。
慶と結唯が重なり合うようにして、たどりついた慶の部屋には洗濯物がつるされている。電気ストーブのスイッチを入れて、結唯の服を脱がそうとする慶。
「自分で脱ぐから」
慶が抱き起そうとして、結唯の美しい背中が画面にあふれる。
そして「つづく」である。
今クルーのドラマは、深夜ドラマに夢中である。
ビヨンセの一発芸で芸能界に出た、渡辺直美は日本テレビ系の「五つ星ツーリスト」(、木曜日よる11時59分)で、いまは庶務部門に異動させられているが、かつてはトラベルマスターと呼ばれていた、旅行プランナー・高瀬京香を演じている。
ドラマの舞台は、京都にあるサンセットツアーズ・西日本支社。新入社員の佐竹一郎(山本裕典)が、上司の宮田正(星田英利)から押し付けられる難しい顧客の案件を、庶務部門の中央管理センターの高瀬(渡辺)と、元ツアーガイドの沢村紅葉(高月彩良)、元敏腕営業マンでいまでは契約ドライバーの川端哲夫(寺島進)らが、協力して最高の旅を作る、という物語である。
高瀬が組んだツアーに登場する、京都の神社・仏閣は本物のロケで、その解説もまた楽しめる。一般的な観光ルートにはのっていない名所、旧跡である。
第5話(2月5日)では、ドライバーの川端の別れた妻・丸山美穂(伊藤かずえ)が、再婚を前提として付き合っている大倉孝彦(中林大樹)と京都にくる。
川端は美穂に未練があり、復縁したい気持ちを伝える。一方、大倉には美穂に隠している秘密がある。公認会計士を自称しているが、その試験に落ち続けているのである。
高瀬は、縁結びの神社に美穂を案内して、川端に復縁を申し出るチャンスを与えると同時に、ふたりに隠れて大倉にその光景をみせるのだった。
そして、大倉は美穂の前に進み出て、嘘の経歴を明かして、改めて結婚を申し込む。
美穂はそれにうなずくのだった。川端もその姿に気持ちが晴れる。
テレビ東京系の「怪奇恋愛作戦」(金曜日深夜0時12分)は、演技派の女優をそろえている。
麻生久美子演じる消崎夏美(けしざき・なつみ)、坂井真紀の揺木秋子(ゆらぎ・あきこ)、そして緒川たまきの華本冬(はなもと・ふゆ)の3人のアラフォーが、前後編2回ずつドラマは進行する。
「21世紀のフランケンシュタイン」「妖怪年食い」……奇想天外な妖怪たちが3人を襲う。崩れ去る洋館や、ヘリコプターなどがそれとわかるミニュチュアなのも意表を突く。
脚本は劇作家のケラリーノ・サンドロヴィッチ。怪奇ドラマと恋愛ドラマをかけあわせるという卓抜なアイデアでみせる。