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草薙剛と大島優子の恋模様 フジテレビ系「銭の戦争」

2015年1月29日

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WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿。

 

柴咲コウと東山紀之が夫婦役で激突

脚本は「家政婦のミタ」の遊川和彦

  外資系の証券会社のエリート社員である白石富生(しらいし・とみお=草彅剛)は、中小企業の経営者である父・孝夫(志賀廣太郎)が背負った数千万円の借金のために、仕事もフィアンセの青池梢(木村文乃)も失う。

 富生の名前は、父によって富に包まれる幸せを得るという願いが込められていた。

  フジテレビ系の関西テレビ制作の「銭の戦争」(火曜日)の第1回(1月6日放映)は2時間の特別枠だった。

  ドラマの冒頭は、キャッシュカードの角を鋭く研ぐシーンから始まる。その手先は白石の父親・孝夫である。それはこの回のラストでわかる。

 路上生活者となった孝夫は川に近い橋の下で、そのカードで頸動脈を切断して自殺するのだった。

  破たんの足音はひそやかに迫ってくる。富生の高校時代の恩師である、紺野洋(大杉漣)は、妹夫婦がレストランの経営のために闇金から借りた500万円を肩代わりしたうえに、利子を払うことになった。

  親子二人暮らしの娘・未央(大島優子)にはこのことを打ち明けられない。未央は契約社員で会社の受付の仕事をしている。会社全体の人員のリストラが浮上していて、その地位は不安定である。

  AKB48出身の大島は、角田光代・原作で宮沢りえ主演で話題を集めている、映画「紙の月」で銀行の窓口業務をする相川恵子役によって、その非凡な演技力をみせた。草薙は、いまや実力は俳優としての地位は誰もが認めるところだろう。

  草薙と大島の恋模様に、元フィアンセ役の可憐な女優・木村文乃が絡んでいくのだろう。木村はドラマの脇役として実績を積んできた。今回はふたりの主役と演技を競いそうな予感がする。

  富生は自分の貯金を取り崩したり、生命保険を解約したりして、父の謝金の5000万円ほどは返却するが、それでも3000万円ほどが残った。

 銀行ばかりか、消費者ローンや闇金まで借りていたことが明らかになってくる。

  父親の遺言状は「すまん、借金はするな」であった。

  そうした間に母親親の三保子(木野花)が脳出血で倒れる。不幸はたたみかけるように訪れるものである。

  外資系証券会社のエリート、中小企業の経営者、その従業員たち、高校教師、契約社員……カネをめぐる時代相は人々を不幸にたたき込む。

  資本主義、といえば大仰になる。しょせんカネはカネ、といってしまってはみもふたもない。

 映画の興行がヒットしたうえに、原作もベストセラー化している「紙の月」は、主婦の契約社員の銀行員が、老人からカネを騙し取って、大学生の愛人に貢ぐ。エリートサラリーマンの夫との日常に忍び込んだ、カネの魔力である。

  カネは紙であるが、それは神となる。カネの物神化である。

  「銭の戦争」はときに、闇金の業者によって、富生が襲撃されるような暗部も描いているが、大杉漣をはじめとする脇役陣が軽妙にユーモラスな演技を繰り広げて、その緩急の進展が飽きさせない。

 そもそも妹夫婦の多額な謝金を肩代わりするのは、深刻な事態だが、闇金業者の赤松大介(渡部篤郎)の巧みな話術に乗せられてしまう。

  この赤松は、富生の父の中小企業の秘密を握っている。事務所の金庫に大事そうに、封筒に入った関連の書類をしまい込むのだった。

 赤松役の渡部もまた、コミカルな悪役である。

 一万円札にアイロンをかけてしわをのばすと、鼻にもっていって匂いをかぐ。人々の喜怒哀楽の匂いがするというのである。

  大島演じる未央が、コンビニの買い物の帰りに500円玉を落とす。転がった硬貨は、借金の金策に窮して道端にすわりこむ富生の近くにころがる。富生は靴で踏んで隠す。

 「足を上げて」という未央に、「断る」と富生。

 「どろぼう」。

  ドラマはどん底に落ちた男の復活劇なのだろうか。あるいは、カネによって成り立つ幸せの幻影からめざめる物語なのであろうか。

  富生は、梢の祖母である青島早和子から、婚約を解消して二度と会わないことを条件にして、1000万円を受け取る。しかし、それも闇金業者に強奪される。

 そんな富生を心配して、カネを届ける梢にこう告げる。

  「自分はひとに優しいと思っていた。それはカネがあったからだ。それがよくわかった。カネをもっている女とつきあってよかったよ。ありがとう」

  憤然として、背中をみせて帰ろうとする梢を呼びとめる。

  「カネを置いていけよ」

  カネの入った封筒を富生に投げつける梢。一万円札がバラバラになって飛び散る。

  「これでおやじの葬式が出せるよ」

  ドラマは観る人にカタルシスをもたらさなければならない。それは登場人物に見る人の心が重ね合わされ、感情移入が起きて、快感が起きるのである。

  「銭の戦争」の登場人物は多彩であるから、観る人はどれかに自らの人生を重ねることができると思う。

  父親の葬儀会場で、従業員や債権者たちに向かって、カネを稼いでみせる、と富生は宣言する。しかしながら、エンディングまでのドラマの進展は単純なものではないだろう。そして、観客のカタルシスもまた深くかつ複雑なものとなるのではないか。

 

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