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世界市場を目指せ! 「相棒」

2014年12月29日

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WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿。

 「相棒」Season13、マンネリを破って15年目を目指す

「名探偵ポアロ」「シャーロック・ホームズの冒険」・・・・

アガサ・クリスティー原作の「名探偵ポアロ」は、英国のテレビ局によってドラマ化され、日本ではNHKが放映を続けてきた。今秋の5回シリーズでついに、25年にわたる歴史に幕を閉じた。名探偵ポアロは、デヴィッド・スーシェがひとりで演じ続けた。

 日本の推理ドラマの代表格である「相棒」はSeason13が進行中で、正月に特別篇を構えていることからシリーズはついに、15年目に突入しようとしている。杉下右京役の水谷豊がデヴィッド・スーシーの年輪を重ねるまでには十分な時間がある。

 「カーテン~ポアロ最後の事件~」は、ポアロの死が謎解きに大きな役割を果たす。人は人を裁くことができるのだろうか、という宗教的な深い余韻が残る。

 「相棒」Season13は、初回2時間スペシャルの「ファントム・アサシン」(10月15日)で幕を開けた。政府の公安問題を担当する内閣調査室と、警視庁の暗闘が背景となっている。ロシアの協力者が次々と殺される。

 殺害された人物たちの情報が掲載された特殊な用紙を、新宿のゴミ箱から拾ったのはホームレス役の松尾貴史である。

  初期のシリーズの「神隠し」で、松尾はやはりホームレスとして登場し、右京と協力して少女誘拐の疑惑に包まれた神父(細川俊之)を救う。この神父には幼女に悪戯をしたという冤罪にまみれた過去がある。不幸な人生を信仰によって、他者に愛を注ぐことに喜びを見出している。いまは亡き名優の細川が出演したドラマのなかでも、傑作のひとつである。

  「名探偵ポアロ」シリーズもまたそうである。アガサ・クリスティの原作は映画でも幾度も映像化されている。なかでも、「オリエント急行殺人事件」はイングリッド・バーグマンをはじめ、アンソニー・パーキンス、ショーン・コネリーら、世界の名優たちが演技を競った名作である。

 ただ、ラストシーンを映画とテレビドラマのシリーズを比べてみると、ドラマのほうがより宗教的な意味合いが強いのである。ポアロはつねにロザリオを握りしめて、登場人物たちが成し遂げた復仇(ふきゅう・仇討)をなかったことにした、自分の行為に深く沈黙するのである。

 「ナイル殺人事件」においても、ドラマのシリーズが犯人たちの人生を顧みて、悲劇につながる理由をしるポアロの苦悩がより表現されている。

 

 「相棒」はシリーズを重ねてきて、つねにマンネリを打破しようという意欲が衰えずに、ここまで到達している。視聴率競争という目標を遂げようとするのは当然である。

  こここで考えていいのは、世界市場を目指そうということではないのか。「相棒」の製作者たちと主演の水谷豊は、世界の推理ドラマを研究していることがうかがえる。

 このシリーズでも、そうした過去の名ドラマに対するオマージュ(敬愛)に満ちていることを指摘した。そもそも国際的な水準を狙っていこうという、という意図を超えてさらに高みを目指すべきだ。

  「名探偵ポアロ」にしても、いまもNHKプレミアムで再放送が続けられている「シャーロック・ホームズの冒険」(ジェレミー・ブレッド主演)にしても、観客をひきつけるのは、トリックだけではなく、犯罪にからむ登場人物たちの人生なのである。

 トリックは古びるが、人生は古びない。

  世界に観客を獲得しているドラマの魅力はまず、美しい女優たちとベテランの俳優たちの競演である。

  「相棒」の第1話は、警視庁から出向している内閣調査室員に仲間由紀恵を起用している。いうまでもなく日本を代表する女優である。

  「名探偵ポアロ」シリーズの「ホロー荘の殺人」を観ると、殺人事件が起きる屋敷の主人に「シャーロック・ホームズの冒険」のドクター・ワトソン役のエドワード・ハードウィクを見いだせる。その老執事の顔を思い出すまでには、ちょっと時間がかかった。フランスのドゴール大統領の暗殺計画の映画「ジャッカルの日」で殺人犯を演じた、エドワード・フォックスである。

  「相棒」第8話(12月10日)は下町の舞台にして、質屋の主人(矢崎滋)と呉服屋の主人(斉木しげる)が巻き込まれた殺人事件を相棒が解いていく。下町の雑踏や路地、東京スカイツリーを望む公園の風景が美しい。

  推理ドラマの魅力は、美しい風景のなかで登場人物たちが織り成す人生にある。実質的に45分間で完結する1話にぜいたくなロケによって、風景を映し込むのは容易ではないが、この回はよくみせた。

  「名探偵ポアロ」における第1次大戦後のロンドンや、海外ロケでみせるエジプトの風景のなんと美しいことであろうか。「シャーロック・ホームズの冒険」もまたそのようである。

  「相棒」が世界市場に出るためには、TOKYOのさまざま都市の顔をみせていくことだろう。そして、やはり1話について1時間45分、コマーシャルと入れれば2時間の枠が欲しい。シリーズの本数を減らしてでも、と考えるが、「報道ステーション」の枠との調整が必要なので多くは望めない。

  「相棒」Season13元旦スペシャルに期待したい。

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