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謝罪広告とCM再開

2015年1月6日

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 ELNEOS 1月号寄稿。

 テレビのコマーシャルであれ、新聞広告、折り込みチラシであれ、広告されないモノやサービスは、世に存在しないのと同義である。

顧客の個人情報が漏えいしたベネッセコーポレーションと、過剰労働問題から大幅な店舗の削減に追い込まれた「すき家」のテレビCMが目につくようになった。

それぞれを傘下に治めるホールディングカンパニーが、事件によって広告を中止して、本格的に再開するまでに約三カ月がかかっている。

両社が要した時間のなかに、経営トップの葛藤が隠されている。

企業は早急に自社の製品やサービスの広告活動を再開したい。ライバルたちがシェアを奪おうと攻勢をかけてくる。

広告の再開を急げば批判を浴びる可能性もある。製品とサービスが反発を招いて売り上げを落とすことは許されない。

経営トップが判断する情報を誰が収集するのか。

メディアに向き合う広報部門と、投資家に説明義務を負うIR部門、企業の社会的な責任を担うCSR部門、そして広告部門が一体となって、事件で損なわれたブランドの再構築に取り組まなければならない。

 危機に遭遇した企業のブランド戦略の要の位置に広報部門はある。

 新聞に謝罪広告を掲載する、テレビコマーシャルの新しい展開……大手代理店のパッケージはクライアントに対する支援の意図があふれているものである。

 ただ、企業のブランドは広告だけでは作れない。

 メディアとその先にいる読者、視聴者がどう感じるのか。企業内にあって、それを知るプロフェッショナルは広報パーソンである。

 ソフトバンクのインターネット接続会社から個人情報が漏えいした事件で、テレビCMの再開までに要したのはわずか約二週間であった。

 インターネットの接続サービスは当時、競争が最も激しい業界であり、経営トップは広告を早期に再開する決断時期を注意深く推し測っていた。

 広報部門の大きな課題として、事件に関する説明責任を果たすと同時に、メディアが広告の再開にどう反応するかを検討することだった。

 再発防止策を検討するために第三者委員会を立ち上げるとともに、企業の姿勢を謝罪広告が焦点となった。

 広告代理店が用意する整った謝罪文よりも、経営トップの肉声が伝わることが重要ではないか、とわたしは考えた。念のために言い添えれば代理店の案が悪いというのではない。

 謝罪広告の文案は広報部門で引き受けた。原案を経営層で練り直して最終稿ができあがった。

 それはわたしがメディア出身だからできたのではない。広報パーソンはトップの経営方針を熟知し、社内の事情に通じる。つまり常日頃から取材力があり、さらに、磨かれた文章力を持っている。広報室長時代に室員を交流人事で新聞社とテレビ局に派遣し、記者として十分に活躍したエピソードは別の機会に譲りたい。

 全国の主要な新聞に掲載された新聞一ページ大の謝罪広告は、いまも事件の教訓として社内に飾られている。

(この項了)

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