FujiSankei Business i. 寄稿。
自民党総裁の安倍晋三氏と民主党代表の海江田万里氏がそれぞれ福島県で、総選挙の第一声を上げたのは、震災地の復興を訴えるばかりではなく、地方の振興策が争点となるのを想定してのことだろう。アベノミクスの「第3の矢」であれ、民主党のマニフェストの「未来につながる成長戦略」であれ、誰がその担い手となるのだろうか。
北上山地が緩やかな美しい山並みをみせる花巻市のホテルに11月中旬、自動車製造の関連企業の担当者が、次世代の自動車の研究会に全国各地から集まった。この日のテーマは燃料電池だった。
宮沢賢治が生まれ育った町として知られる田園地帯で、こうした催しが開かれるようになるまでには、この研究会のコーディネーターを務める佐藤利雄さんの存在が欠かせない。
重電機メーカーなどを経て、故郷に戻り平成8年に市のインキュベーション施設の職員になった。5年前からは岩手大学の地域連携センターの特任教授も務める。
「産官学が明るく交流できる場をつくることを目標にやってきました」と語る。
岩手大学農学部の教授と地元の豆腐製造の中小企業をつないで、栄養価の高い独自の商品を開発して売上高を倍増した。同大工学部と工具メーカーで商品化したドライバーの補助器具は、ネジが落下しにくく、操作性もよいので自動車メーカーに普及している。
佐藤さんは地域の産業構造の変化に眼を配ってきた。岩手県南部にトヨタ自動車系の自動車組み立てメーカーが進出したのは平成5年、トヨタ自動車東北が平成10年に宮城県で創業を開始した。トヨタが系列3社を統合してトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)を設立したのは3年前である。
「東北の産業はこれからハイテク・モノづくりに向かう」。この地域で唯一のベンチャー投資会社である東北イノベーションキャピタル(仙台市)社長の熊谷巧さんは語る。旧日興証券で証券アナリストやベンチャー・キャピタリストを務め、子会社のトップを退いたのを機に、大学時代まで過ごした地元に戻って創業してから11年余りが経つ。
3つのファンドを立ち上げて、その総投資額は約58億円。投資先の業種はバイオ・メディカルとエレクトロニクス・電子部品、微細加工・検査装置が大きな柱で計7割を占める。
「東北の中小企業は、自らの技術力の高さを意識していないところが多い」。日本政策投資銀行の「東北ハンドブック」(平成25年度版)によると、県外に本社を置く事業所も含めて、ある分野で世界1位の市場シェアがある東北の事業所は11ヵ所、日本1位が94ヵ所ある。
熊谷さんのファンドの投資先のうち、ジャスダックに1社、マザーズに2社が上場を果たしている。
「地域に根差して中小企業と大学や官庁を結ぶ人が大事である」といって、熊谷さんは指を折りながらそうした人物を上げていく。佐藤さんの名前が出たときには驚いたが、当然なのだろう。顔の見える人々によって地域振興は成し遂げられる。