WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿。
「戻ります?」
タクシードライバーの枝分(えだわかれ・竹野内豊)が運転席から振り返って乗客にたずねる。
フジ系列で放映されている、関西テレビ制作の「素敵な選TAXI」(火曜日22時スタート)の決めセリフである。
戻るとは、過去に戻る。
タクシーがタイムマシーンという奇抜な設定のドラマである。「選TAXI」は乗客が人生の分岐点に立ち戻って、もう一度やり直してみる。シュミレーション・ゲームのように、ドラマが進展する過程でいくつかの選択肢を選ぶ。
現在と過去をいったり、きたりして、果たして望むべき今に戻ってこられるだろうか。Aコース、Bコース、さらにはBコースから枝分かれしたCコース……。
料金は、10分後の世界に戻るのに\3,000である。
ゲストに女優を迎えて1話完結。第1回「公開しているアナタ、人生やり直すタクシーに乗りませんか?」からついつい見続けて、第7回「美人OLに隠された過去!玉の輿直前の選択肢」(11月25日)まで、竹野内のトボけた演技を楽しんでいる。
第7回のゲストは貫地谷しほり。社内の上司や後輩から信頼が厚いOLの真理(貫地谷)は、IT企業のCEOである内藤彰(葛山信吾)と婚約している。
内藤が真理の父母に挨拶をするというと、彼女はあいまいに拒絶する。その理由を問い詰める内藤に対して、真理は次のように話すのだった。
「父親には暴力を振るわれ、母親は家事もしないで夜遊びばかりしていた。それが嫌で家を飛び出したまま連絡をとっていない」と。
しかし、内藤に説得されて真理はふたりで実家に行くことになる。
ドラマは毎回、枝分(竹野内)の行きつけの喫茶店「café choice」から始まる。マスター役のバカリズムがこの作品の脚本を手がけている。
お笑いから俳優、作詞家など多彩な採用をみせるバカリズムと枝分、そして常連の標道雄(しるべみちお・升毅)のかけあいも面白い。
これに、店員の宇佐美夏希(南沢奈央)と関カンナ(清野菜名)も色合いを添える。
枝別はさまざまな土地に「選タクシー」の表示を付けた車を向けるが、そのきっかけはカフェでの会話がきっかけとなる。パワースポットが移動の理由になる。
田園地帯の小さな駅のそばにある、パワースポットの神社を撮影しようとしていた枝分は地元のレディース(暴走族)の3人にからまれる。
実家に最寄りの小さな駅にちょうど降り立った内藤(葛山)と真理(貫地谷)。制止する内藤を振り切って真理が、枝分を助けようと駆け寄る。
物陰でレディースと真理が話をすると、なぜか彼女たちはバイクに乗って去る。
Aコースは、枝分が助けてもらったお礼に真理の実家にふたりを送り届ける。自宅の前の畑で農作業をする真理の父は、「謝るのが先だろう。帰れ」という。すごすごと帰ろうとするふたり。実は、真理は内藤に隠している事実があった。
彼女の家では父母に理由があるのではなく、真理が地元レディースのトップである初代総長まで務めて、警察に補導されることが度々だったのである。
内藤はバスで去り、取り残された真理は追いかけようと、携帯で枝分の車を呼ぶ。ここでタイムマシーンのサービスを知る。
「戻ります?」
Bコースの始まりである。実家についた時点に戻る。
内藤を入口で待たせて、両親に誤るが、不良だった少女時代を内藤には内緒にするように頼むのだった。その後、内藤は両親に結婚の承諾を得る。
すべてはうまくいった。しかし、内藤と一緒に門を出ると、駅でからんだレディースたちから真理の話を聞いた軍団が歓迎しようと集まってきたのである。
真理の過去がばれる。
ふたたび真理は選タクシーに。Cコースは駅からバスにすぐに乗り込む。レディースに絡まれた枝分を助ける過去は消される。実家の挨拶を終えても、レディースたちは現れない。ただし、枝分はレディースたちに少々痛めつけられる時間を持たなければならなかった。その途中で助けてくれたのが、café choiceの店員のカンナ(清野)だった。レディースの総長だった彼女の過去がここで明らかになる。
帰りの電車を待つふたり。真理は内藤に真実を語っていないことに良心が痛む。駅のそばに止まっていた枝分の車に乗り込む。「彼に本当のことを話したいのでまた戻って」と。
枝分はこういうのだった。
「戻る必要なないんじゃないですか。ここで話せば、それにわたしがもう一度痛い目にあるのも嫌ですし」
タクシーのなかで話あうふたり。駅のベンチにたたずむ枝分。
カメラはタクシーのなかに入って。
内藤はいう。
「レディースだったことは分かっていたよ。君が切れたときの言葉や部屋をみればね」
真理の部屋には、バイクのミニチュアが飾られ、飾りは原色に満ちている。
時空を行き来しながら、ゲストの女優たちが演じる秘書や医者、OLらが到達する今はそれぞれが、あたたかい幸せをみつける旅の終着点である。
バカリズムの脚本は幾何学の補助線のような、鮮やかなエピソードによって毎回締めくくる。
新たな才能を持ったドラマ作りの登場は、今年のテレビ界の収穫のひとつである。