ブログ

「クドカン」ドラマの魅力再びTBS日曜劇場「ごめんね青春!」 

2014年11月18日

このエントリーをはてなブックマークに追加

満島ひかりのテンポのよい演技が引き込む

 WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本 寄稿(10月22日)

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 カトリック系の女子高校の告白室。女生徒が男子高校生とつき合っていることを告げる。なぜかかたわらに英語教師の蜂矢りさ(満島ひかり)がすわっている。

 突然、蜂矢の早口のせりふ。

   つき合ってるって!

  ふたりで英語の辞書を引いたりして、ひわいな言葉をみつけて。

   「これどういう意味かな」「どういう意味かしら」

   (告白室のしきりの小さな窓のような引き戸が、反対側から力いっぱいに開かれて)

   修道女で校長の吉井良江(斉藤由貴)が叫ぶ。

  「落語は止め!」

  脚本家の宮藤官九郎が、NHKテレビ小説「あまちゃん」以来のドラマをてがける、TBS日曜劇場「ごめんね青春!」は主役の教師・原平助を演じる錦戸亮とともに、満島ひかりの魅力が画面からあふれる。

 第1話「恥と後悔と初恋の記憶」(10月12日)と第2話「お前しか見えない」(10月19日)を観た。

 舞台は静岡県三島市。仏教系で男子校の駒形大学付属三島高校と、カトリック系の聖三島女学院は隣同士である。定員割れが続く三島高に比べて、女子学院は偏差値が高く、現役の進学率が7割もある。

しかし、14年前の火事で焼失した礼拝堂とプールの新設に投じた資金の支払いが行き詰って、三島高と合併しなければならない事態に追い込まれている。

 校長の吉江が、三島高に乗り込む。合併に乗り気でないことを告げる。三島高の三宮大三郎(生瀬勝久)と言い合いになり、茶菓子の落雁を投げつける。

  三宮は眼をつりあげていう。「落雁より固い女だ」

 三島高の原(錦戸亮)の提案によって、女学院と3年生の1クラスの半分ずつを入れ替えて男女共学の実験を始めることになった。教師も相互交流することになり、原は女学院に、蜂矢(満島ひかり)は三島高に。

 「クドカン・ワールド」のギャグは満載である。

 原と蜂矢がそれぞれの生徒を引き連れて、互いの高校に足を踏み入れた瞬間から、観るものはドラマのテンポのよさに引き込まれていく。

原と男子生徒たちは、女生徒たちの反発を受けて散々な目にあう。蜂矢が男子生徒の信頼を一瞬でつかんだ様子は後ほど。

 蜂矢は原を問い詰める。

   原 軽く口が滑ったでしょうね。(男子生徒がこれまで)女っ気がなかったっていって。

  蜂矢 で?!女っ気!女らしいとか、女ざかりとか、いっちゃいけないでしょ!

   それと、意味なくニヤニヤしない。

   わたしの言葉を繰り返さない。1行無駄でしょ!

  原 1行無駄?

  蜂矢 ほら!1行。

 

  蜂矢が男子生徒を前にしていった言葉は。

  「先にいっておきますけど、わたしは処女です。彼女たち(女生徒)も処女です。神の御怒りに触れずに、純潔を犯せますか?!」

  ドラマのひとつの縦糸なっているのは、原の高校時代の秘密である。三島高生だった原は、女子学院の蜂矢祐子(波瑠)に思いを寄せる。ふたりが恋に落ちるようにけしかけていた、親友の蔦谷サトシ(永山絢斗)が実は、祐子とつき合っていた。祐子は蜂矢の姉である。

 夏祭りの夜、女学院の校舎の屋上でサトシと祐子が抱き合うのを、三島高の校舎から原はみつめる。祐子と花火をする約束を取り付けたと思っていた、原はその花火を女学院側に向かって次々に放つ。これが女学院の礼拝堂が燃え尽きる火事の原因となったのである。

 クドカンの脚本は、ほろ苦い青春を描きながら、けっして湿っぽくならない。火事の事件がきっかけとなって、女子学院を退学した祐子はいまどうしているのか、その恋人の蔦谷は。原は放火の秘密をいつ打ち明けるのか。ふたつの高校の合併は成功するのか。

 ドラマの冒頭から巧みにいくつもの伏線を張って、観る者を飽きさせない。

「あまちゃん」でそうであったように、クドカンはドラマに自らの青春を投影している。フィクションを現実のモデルに求めるのは邪道だという見方もあるが、三陸沿岸の風景や人情をすくいあげた彼は再び、テレビドラマのなかで三島を舞台にしてみせてくれる。

 このシリーズのなかでも触れたように、クドカンは宮城県北部の男子校出身である。青春時代を同じ地方で過ごしたわたしには、「あまちゃん」の沿岸を走る第三セクターの鉄道に似て、仙台平野を走る栗原電鉄がかつてあった。

今回のドラマでは、伊豆箱根鉄道駿豆線がモデルの鉄道が、高校生たちの通学路線となって登場する。

 ドラマのなかで、登場人物たちが口走る、1980年代のセクシャルなテーマ専門の雑誌や、ラジオの深夜放送のDJの語り口なども楽しめる。

 そもそも、タイトルの「ごめんね青春!」自体が、かつての青春ドラマの「飛び出せ!青春」のパロディーではないか。

 黒板にチョークで言葉を書き記しながら、教壇から生徒に説く原の「恋愛論」もドラマの魅力になっている。

 「今は誰ともつき合えない」と書き、女性からこういわれたらどういう意味かを、原は問う。生徒たちのまちまちな答えをすべて否定して、次のようにいうのだった。

 「彼氏はいるけれども、お前とはつき合えないという意味だ。女は嫌な奴にも気をつかうものだ」と。

 

このエントリーをはてなブックマークに追加