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海江田代表の「政治経済学」

2014年10月7日

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FujiSankei Business i. 寄稿。

 安倍晋三内閣の与党自民1強に対して野党はどう攻めるか。アベノミクスの先行きについて強気論とその反対論が交錯するなかで、臨時国会の論戦が始まった。安倍首相の所信表明演説に対する各党の代表質問のなかで、野党第1党の海江田万里代表の経済政策をめぐる質問と、安倍首相の答弁は鋭く対立した。

 海江田氏は労働者の実質賃金が昨年7月以来、連続して前年を下回っている点を質した。安倍首相は春闘の賃上げと労働者の賃金全体の伸びを示して反論した。

 経済の行方を人々の個々の生活のありようからから見ていくのか、あるいは全体としての動向に注視するのか。

 代表選の前倒しの動きを乗り越えて、党内の有力者を新体制に取り込んだ、海江田氏の経済政策の方向性は前者にはっきりと重心を移した。海江田氏にようやく、自民党に対抗する強い意欲が現れてきたようだ。代表質問前日の9月29日の定例会見で「総理の所信表明演説はずさんでまるでブログのようだ」と言い切った。

 経済評論家として出発した、海江田氏の政治家思想を形成するのに影響を与えたのは、イタリアの思想家のアントニオ・グラムシである。評論家時代のオフィスには彼の肖像が飾られていた。

 グラムシはイタリア共産党の設立に加わったが、10年以上にわたる獄中生活の末に1937年に亡くなった。ソ連共産党の指導に対して反対の論陣を張った。知識人の役割を重視して、大衆を教育するとともに教えられながら、政治活動を成し遂げるという考えだった。フルシチョフによるスターリン批判やハンガリー動乱などがあって、マルキシズムに失望した欧州ばかりではなく、日本の若者にも静かに浸透した。

「政治はやはり、強者の論理ではなく、政治の助けを求めている人々の声に耳を傾け、そうした人々(=弱者)のために力を尽くさなければならないと考えています」というホームページに掲げた、海江田氏の政治信条は、グラムシの思想と重なり合う。

 海江田代表は「団塊の世代」である。安倍首相の祖父である、岸信介内閣を退陣に追い込んだ「60年安保」とその後の「70年安保」時代に青春を過ごした人々は、マルクスの「資本論」を講じる「政治経済学」の洗礼を浴びている。資本主義の分析よってさまざまな矛盾を明らかにするものである。

 グラムシの研究家である海江田氏に、記者会見の際に「欧州の社会民主主義に影響を与えた彼の思想から、民主党はリベラルの旗を掲げてはどうか」と尋ねたことがある。「時代が違いますから」と質問をかわされた。

 ポスト団塊の世代の安倍首相のブレーンに、市場の役割を重視する新古典派経済学者が目立つのは、ある意味で世代間闘争のようにもみえる。

 大学教育の現場では、海江田氏の母校の慶応大学をはじめ、主要な大学でいまも「政治経済学」は経済学の基礎科目になっている。

 

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