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経済ジャーナリストの矜持

2014年10月5日

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エルネオス(ELNEOS)寄稿。、定期購読雑誌です。定期購読はhttp://www.elneos.co.jp/order.html

 通信教育大手のベネッセホールディングスの個人情報の大量流出事件は、ソフトバンクの広報室長として、直面した、子会社のインターネット接続サービスで起きた同様の事件と重なり合う。

 あのときは、政界にも影響力がある団体の幹部が、会員名簿を人質にとった形で数十億円を要求する恐喝事件だった。

 トップを中心とするごく少数の危機管理チームは同時に、店舗に青酸カリや爆弾を仕掛けたという脅迫電話によって緊迫した瞬間を幾度も迎えたのであった。

 電話による脅迫は、即座に警察に通報するとともに、店舗の警戒態勢に入ったが、脅迫が現実化することはなかった。

 しかしながら、いまとなってはその真相を明らかにすることは困難であるが、個人情報をもとのした恐喝と一連の脅迫に、共通する匂いを感じるのは、誤りだろうか。

 各種の報道によれば、ベネッセは会員が別の企業から、登録した住所情報などに基づいて勧誘の郵便が送られてきた、という苦情から独自の調査によって個人情報の漏えいを明らかにして、捜査当局と派遣社員の容疑者を割り出したとされる。

 容疑者が明らかになった瞬間、企業はレピュテーション・リスクにさらされる。ここからは慎重な表現が必要なのだろう。

 捜査当局をつねに取材している社会部がある。敬愛する経済ジャーナリストはことの良し悪しではなく、社会部について次のようにいう。

 「国家権力とともに企業に乗り込んでくる」

 捜査当局がつかんだ情報をもとに、あるいは独自取材も交えて、捜査当局の動きとともに、社会部は企業事件に乗り出してくる。

 企業の広報パーソンが取材を受けるのは経済ジャーナリストが主体である。

 ジャーナリストとひとくちにいっても、専門領域によっていささか取材手法やそのスタンスに違いがある。

 最新刊の「ジャーナリズムの現場から」(大鹿靖明著・講談社現代新書)は、経済ジャーナリストやフリーランス、雑誌記者、科学記者、海外特派員らのインタビューから、ジャーナリズムのいまを探ろうという力作である。広報パーソンは刮目に値する。著者の大鹿氏は、「メルトダウン 福島第一原発事故」によって講談社ノンフィクション大賞を受賞した、朝日新聞の経済記者である。

 経済ジャーナリストの高橋篤史氏はインタビューに応えて、ソフトバンクの子会社の個人情報事件に、巨大団体の幹部がからんでいたころから、その団体の真相に迫る取材を開始したと語っている。

 高橋氏は、日刊工業新聞から東洋経済新報社を経て独立した。この間、不良債権問題で借り手の側の深層を明らかにした著作でも知られる。

 独自取材によって、記事の対象となった企業からの訴訟も恐れない。「国家権力」とともに企業に乗り込まない。経済事件の裏側に巣食う人脈やそのやり口について、証言者の言葉を二重三重に裏をとる。

 経済ジャーナリストの矜持ある取材姿勢が貫かれている。

        (この項続く)

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