フジサンケイビジネスアイ寄稿。
東日本国際大学(福島県いわき市)は、福島第1原発から最も近い大学である。震災地から地域の創生のアイデアを発信しようと、地域振興戦略研究所を7月末にスタートさせた。大学の教員ばかりではなく、東京などから幅広い分野の人々を集めて、学際的な研究を始める。「地方創生」を掲げる政府の政策立案にはるかに先立って、この一年ほどをかけてこぎつけた。
安倍晋三内閣は9月3日の改造に伴って、「まち・ひと・しごと創生本部」を発足させる。この本部が誕生する、大きなきっかけとなったのは、日本創生会議(増田寛也議長)が人口減少に関してまとめたリポートである。東京を中心とする大都市圏への若者の人口流入が止まらない場合、若年女性(20歳~39歳)の人口が2040年に5割を切る市町村が全体の半数近くになり、これらの市町村は出生率が上がってもいずれは消滅する。
このリポートのなかで、福島県はその予測が空白になっている。いまもなお13万人を超える避難者がいて、推定が困難だからである。
地域振興戦略研究所のキックオフの研究会で、いわき市の北部に隣接する広野町の遠藤智町長は、「米国のハリケーン・カトリーナや、インド洋の大津波の被災地の専門家からも、どのようにすれば被災地の人々が立ち上がれるか、学ぼうとしています」と語った。
「国際シンポジウム『広野町から考える』」と題して、この1カ月半ほど前に開かれたシンポをYouTubeでみた。米国、インドネシア、スリランカと国内の研究者が、災害の被害者がもとの居住地に帰還するためにはなにが必要なのかが議論されている。
世界のなかで、国内に避難している人数は2500万人と推定されている。今回の震災の避難者は全国で7月10日現在24万7000人であるから、約1%に相当する。こうした研究者の指摘は、震災地の復興に世界的な視野をもたらす。参加国の研究者たちは、自国の災害から被災地が復興する要件として、地域の産業の再建とコミュニティーの再構築を共通してあげている。
キックオフの研究会に参加した、早稲田大学理工学術院教授で博物館明治村館長の中川武氏は、カンボジアの内戦後にアンコールワットの修復事業にかかわった経験なども踏まえて、「伝統の復活が社会の復興につながる」と述べた。岩手県大槌町で伝統芸能を復活する活動を進めている。
同大学文化学術院教授の近藤二郎氏は、宮城県・松島の宮戸島で、原種の山桜の花で島を覆うようにする「縄文桜」の計画を進めている体験を語った。観光地のブランドをさらに確立して、地域振興に役立てる方策である。
東日本国際大学理事長の緑川浩司氏は「政府の政策を待つばかりではなく、震災地から復興の知恵を創出していきたい」と語る。
政府の「地方創生」の政策と、震災地の学際的な取り組みがひとつになって、復興のスピードがあがることを願う。