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世界的な視野から列島の災害を考える NHKスペシャル「巨大災害」シリーズ

2014年9月10日

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シュミレーション映像に凝縮する科学の力

  WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 関東大震災が発生した1923(大正12)年9月1日を教訓として、毎年同日に列島の各地で繰り広げられている「防災の日」の訓練は、東日本大震災の発生によって、より実践的になってきた。

 さらに、広島市の土石流の被害は、列島がいかに災害に直面しているかを改めて思い知らされた。

  NHKスペシャル「巨大災害」の4回シリーズは、世界的な科学者の研究成果を紹介しながら、列島の災害に迫る。第1集「異常気象“暴走する”大気と海の大循環」(8月30日)と、第2集「スーパー台風“海の異変の最悪シナリオ”」(8月31日)をみた。

司会者にタモリを起用して、専門家に素朴な疑問を投げかけながら、これから起きる可能性がある巨大災害への理解が進む。さらに、シュミレーション映像が、巨大災害がいかなる脅威をもたらすのかを実証する。

 スーパー台風とは、中心付近の気圧が910hPa以上のものをいう。日本を襲った台風としては、1979年の台風20号の870hPaが最高である。

 「急速強化」という気圧が急速に低下する現象によって、その台風は発生する。

  台風の中心付近で、海面からの上昇気流によって、先端がとがった柱のように何本も立ち上がり、それらは上昇に積乱雲を発生させる。

 台湾大学の林依依教授らの研究によって、台風が発生するフィリピン沖の海洋の深層の温度が上昇する傾向が明らかになり、過去に相対的に低かった場合よりも、この上昇気流による気圧の低下がより大幅なものであることがわかってきた。

  海面の温度が上昇しても、深層の海水が低いときには、「急速強化」は抑制されていたのである。

  タモリは、趣味のヨットで遭遇した体験を話しながら、専門家の名古屋大学の坪木和文教授にたずねる。

      タモリ ヨットを操縦していて、積乱雲が見えたので避けようとして、その直下に向かったら、船艇が45度も傾いたことがありました

      坪木  熱帯低気圧の風速は毎秒17mですが、急速強化によって、スーパー台風は60mにも及びます。

  スーパー台風に近い猛烈な台風が列島を襲った場合のシュミレーションとして、紀伊半島から中部地方にかけて、5000人近い死者をだした、伊勢湾台風(1959年)と比較する。

  太平洋で発生した台風は、たった2日後に1000hPaから912hPaとなり、伊勢湾台風と同じ進路をたどって、925hPaで上陸する。瞬間風速は毎秒75mである。

  伊勢湾台風よりも、暴風雨圏が直径200㎞拡大して、九州から関東まで範囲が広がる。大阪では、風速50mの強風がビルを襲う。浜松では、70mの強風によって、住宅が倒れる。さっらに、新幹線の架線が切れて、運行不能となる。さらに、電力の鉄塔が次々に倒壊する。鉄塔の強度は風速60mまでしか耐えられない。

  台風による高潮は、四日市付近で高さ10mにも及び、日本を代表する化学コンビナート地帯に甚大な被害をもたらす。名古屋付近でも高潮は5mと推定される。この高さは伊勢湾台風よりも1m上回る。

  地球を覆っている大気と海水の変調によって、引き起こされているのはスーパー台風ばかりではない。

 この1年余りをみても、カリフォルニアを襲っている干ばつによる山火事は、火災旋風を巻き起こしている。中心部に火の柱が直立しながら、旋風を伴って動く竜巻である。

 米東海岸は寒波が襲い、シカゴは平年より20度も低いマイナス30度となった。ニューヨークは積雪によって非常事態宣言をした。

ロンドンは平年の2倍から3倍の雨量を記録して、テムズ川があふれる250年ぶりの大洪水となった。

 世界の研究者たちは、偏西風が海水温の上昇によって、その蛇行のしかたが変化したことが要因であると考えている。

 偏西風は、赤道付近の暖かい空気と両極の冷たい空気の間を、蛇行しながら大気をまぜているような役割をしている。

 それが、海洋の気温の上昇によって、北に押し上げられて、蛇行しながらもある地域の上空で停滞する現象を起こしている。

 カリフォルニア付近では湿った空気を南方からもたらす役割を果たせず、東海岸では逆に湿った空気を大西洋からもたらして、大雪となった。

 さらに、巨大災害の危険性が高まっている現象に、番組は光を当てる。

 「ハイエイタス(停滞)」という現象である。世界各地の平均気温と、海洋の表面の海水の温度は、ここ10年間ほど、その上昇傾向を止めているようにみえるのである。

 しかしながら、海面下の700mから2000mにかけては、逆に水温が上昇を続けている。地球が太陽から受けているエネルギーが、深海に蓄積されている。

 東京大学の渡部雅浩准教授は「地球温暖化はとまっていない。深海に吸収されている」と語る。

 さらに、渡部准教授は、ハイエイタスの周期が10年あるいは20年であることから、いずれ、停滞から上昇に転じる可能性が高いことを指摘している。

 ハイエイタスが終了すれば、巨大災害はその激しさを増すのである。

 「巨大災害」シリーズの再放送は、第1集が9月14日、第2集が15日。

さらに、第3集「巨大地震」は20日、第4集「火山大噴火」は21日である。

とくに、前者は、NHKスペシャルが取り組んできた地震に関する番組よりも新たなメカニズムが解明された、という。

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