ブログ

家族をめぐるドラマの「静」と「動」

2014年8月12日

このエントリーをはてなブックマークに追加

豪華若手キャストvs小泉孝太郎 フジ「若者たち」とTBS「ペテロの葬列」

 妻夫木聡、瑛太、満島ひかり、蒼井優、長澤まさみ、橋本愛……日本を代表する若手俳優を配した、かつての映画でいえば「オールスター・キャスト」のフジテレビ金曜ドラマの「若本たち2014」。

 宮部みゆきの杉村三郎シリーズのTBS月曜ミステリーシアター「ペテロの葬列」は、資産家の娘を妻に持つ杉村役の小泉孝太郎が主役である。

 家族をめぐるふたつの夏改編のドラマを並行して観みてきた。若手俳優たちが火花を散らす「静」と「動」の演技について魅せられる。

 「ペテロの葬列」のなかで、小泉孝太郎はその主人公・杉村の冷静な演技とともに、独白ともいえる静かな語りによって、ドラマを進行させていく。

  杉村は元出版社の編集者である。今多コンツェルンを率いる今多嘉親(平幹二朗)の娘とも知らずに付き合い始め、妻の菜穂子(国仲涼子)と結婚、義父に命じられてグループ広報室で社内報の副編集長の地位にある。

 取材にいった帰りのバスが、拳銃をもった老人(長塚京三)によって、バスジャックされる。杉村と編集長の園田瑛子(室滋)、編集部員の手島雄一郎(ムロツヨシ)と、中小企業の経営者ら8人が人質となる。

 バスジャック犯の老人は、交渉相手となった警察官に対して、3人の男女を現場に連れてくるように要求する。その間に、彼は人質たちに奇妙な約束をする。事件が終了したあとに、賠償金を支払うというのである。

 杉村は老人によって、人質たちが不安になるどころか、彼の言葉によって完全に支配されていることに気づく。ひとり編集長の園部だけが、うずくまったまま不安と恐怖にかられている。

人質は順次解放され、バスから降り際に園部は老人にこういう。

「わたしはあんたのようなひと知っている」

 老人は答える。

「わたしは彼らとは違う。しかし、お詫びしなければならない。申し訳ない」と。

 バスの床の羽目板から、警察が催涙弾を打ち込み、その瞬間に老人は拳銃で自らの頭を撃ち抜き自殺、事件はあっけなく解決する。

 杉村たち人質のもとに、老人が約束した「賠償金」が届き始める。300万円や500万円など金額はまちまちである。

老人がバスジャックの現場にくるように要求した3人の人物を探ることから、杉村は事件の真相に迫ろうとする。

 そして、老人がかつて、詐欺商法の指南役ではなかったのか、という疑惑にたどり着く。詐欺商法のメンバーは、かつて企業の社員教育を請け負っていた、と義父の今多は打ち明ける。編集長の園田は今多グループが社員教育に送り込み、洗脳教育のようなカリキュラムから自殺未遂を図ったことが明らかになる。

 第5話(8月4日放映)に至って、3人のうちひとりの男性が殺される。被疑者はかつて彼の下で詐欺を働いていた。

 「悪は伝染し、姿を変えて伝染していく」

 「人生のあとをひく。そのときは重要だとわからないのだ」

  小泉のナレーションは静かに、物語の緊張を高めていく。杉村がたどりつく運命とは。

 「若者たち」は1960年代後半にヒットしたシリーズのリメイクである。前作は、劇団・俳優座の若手たちが青春群像劇を作り上げた。舞台となった佐藤一家の長男は田中邦衛、次男は橋本功、長女は佐藤オリエ、三男に山本圭、四男に松山省二である。

 青春とはいつの時代も苦悩に満ちたものである。「2014」版の佐藤一家は、現代社会の問題を反映して、前作以上に苦悩が深いようにみえる。

 長男の旭(妻夫木聡)は一家のために中卒後から地道に、道路工事作業員としては働いてきた。恋人の渡辺梓(蒼井優)が妊娠、それも旭と結婚したいがためのそれであった。

次男の暁(さとる・瑛太)は詐欺事件を引き起こして、刑期を終えて出所したばかりである。

ひかりは、看護師として勤務している病院の医師・新城正臣(吉岡秀隆)と不倫関係にある。

三男の陽(はる・柄本佑)は留年して演劇の夢を追う。四男の旦(ただし・野村周平)は大学受験を目指して通っている予備校で、永原香澄(橋本愛)に誘惑されて、妊娠したと嘘をつかれて金銭を要求される。

 第4話(7月30日)は、次男の暁がなぜ詐欺事件を起こしたのか。そして、暁が医師の新城に敵意を抱くのか、その理由が明らかになる。新城の患者だった、心臓病を抱えた恋人・吉川瑞貴(広末涼子)の移植手術の費用を得るための犯行だった。しかし、瑞貴は舞台女優を夢見ていた。しかし、亡くなる。

新城になぜ早く手術の必要を教えなかったのか、と迫る暁に彼はいう。彼女が知らせることをやめるように頼んだのだと。

「暁が自分の夢なんです、と彼女はいったんだ。自分の命が限りあるものだとわかっていた」

 劇中劇で演じられる、つかこうへいの「飛龍伝」を演じる、香澄(橋本愛)の姿が暁の目には瑞貴(広末涼子)に見える。

 佐藤一家の人々は、激しい言葉のやりとりばかりか、雨中のけんかの「動」の演技をみせる。舞台劇を思わせるやりとりには賛否がある。

 「ペテロの葬列」の小泉孝太郎の静かな演技に、わたしはより魅かれる。

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

このエントリーをはてなブックマークに追加