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TBS 「家族狩り」 天童荒太の原作の挑戦する大石静

2014年7月24日

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松雪泰子がたどり着く悲劇の果てとは

 「これは無理心中なんかじゃあない。誰かが家族を刈っているんだ。家族狩りだよ」

  警視庁捜査一課の馬見原光毅(まみはら・こうき、遠藤憲一)は、世田谷の民家で、祖父と父母そして息子が死んでいる現場に踏み込んで、部下の椎村栄作(平岡祐太)向かってつぶやく。

  TBS金曜ドラマ「家族狩り」である。天童荒太の長編の原作は1995年の初作を、作者が2004年に大幅に加筆した。新潮文庫5巻にわたる長編である。

  原作には、フィクションでありながら、ノンフィクションを読むような現実感がある。サスペンスからコメディまで幅広い作品をてがけてきた、脚本家の大石静と泉澤陽子が映像化に挑む。

  第1話(7月4日)と第2話(7月11日)を観た。原作は緻密な文体と登場人物の心理描写によって、読者を飽かせることなく結末まで読ませる。「家族狩り」の事実とその犯人に行き着くのは終盤である。

  ドラマは冒頭から、一気に「家族狩り」の可能性とサスペンスの緊張感を高める。

  刑事役・馬見原役の遠藤の感情を殺した表情と、短いセリフがいい。映画やテレビドラマのヤクザや刑事役、時代劇まで幅広い活躍をしている遅咲きの俳優である。

  民家の鍵がかかった密室で、連続して家族の死体がみつかる。ドラマは赤羽の事件で始まる。この前に大森で同様の事件が起きている。そして、冒頭の世田谷である。

  現場の所轄の警察署は子どもによる一家の無理心中だと結論づけようとする。馬見原は殺人事件の可能性を追求する。

  現場に漂っていた甘い香りと化学物質のような匂いが、引っかかるのである。そして、世田谷の事件で2階の自室でベッドに突っ伏して、のど元にカッターナイフを刺して息絶えている長男の姿である。

  馬見原はつぶやく。

  「この違和感はなんなのだろう。ひどい光景だというのに。美しい……そんなバカな」

 ドラマのヒロインは、さまざまな理由で心身が傷ついた子どもたちを受け入れる、児童ケアセンターの職員である児童心理司の氷崎游子(松雪泰子)である。

 氷崎が帰宅するたびに、手をしつこいほどに洗うシーンが何度も挿入される。事件の現場に姿を現す、そして、現場に仮設された献花台に花を供える。

 一家がすべてなくなった事件の家族になにがあったのかは、これから明らかにされるのだろう。

 ドラマは、馬見原や氷崎をはじめ、登場人物たちがそれぞれ家族の問題を抱えていることが描かれていく。そして、事件に手繰り寄せられるようにして、それぞれが絡み合い、ドラマは織りなされていく。

 「家族狩り」は、家族とはなにかを問うドラマである。このテーマが重層的に進行する原作をドラマの脚本は忠実に生かしていると思う。登場人物の肩書や役割に、原作とはいささか違いはあるとしても。

 氷崎は、アルツハイマー症の父親を抱えている。母がその介護に疲れている。氷崎は仕事で保護したこどもたちを最大限の努力によって、幸せに導こうとしているが、理想はかなわない。

 氷崎はかつて、馬見原の非行に走った娘を保護したことがある。娘への愛情が感じられない彼のほほを平手打ちした過去がある。

 馬見原は息子を失い、そのために妻は精神疾患になり入院している。娘は家を出て結婚した。妻の入院中に、かかわりあった暴力団の妻と関係ができて、その息子に「お父さん」と呼ばれている。

 氷崎と馬見原とからみあうのが、私立高校の美術教師の巣藤浚介(伊藤淳史)である。

巣藤は世田谷の事件が発覚する前日の夜、隣家の悲鳴を聞きながら、同棲状態の恋人の「猫よ。なにかあったら誰かが警察に知らせるでしょ」といわれて、通報しなかった負い目があった。

マンションから現場をのぞき込む巣藤に馬見原は気づいて、聞き込みで問い詰める。

 巣藤の学校の女生徒・芳沢亜衣(中村ゆりか)が、ラブホテルで一緒に入った男性を灰皿で殴った事件で、氷崎はその芳沢を保護する。

 芳沢は、巣藤に暴行されたと嘘をつき、彼は警察の取り調べを受けるが、事実関係が明らかになって放免される。

 リスト・カットを繰り返す芳沢の家庭の真実もこれから、明らかになっていくのだろう。

 家族をめぐる深刻なドラマの進展のなかで、脚本はほろ苦いユーモアを織り込んで、家族のありかたをいまさらながら考えさせられる。

 氷崎の父は、徘徊しているときに、巣崎と知り合いになる。雀荘でマージャンを伴にし、氷崎の自宅にいって将棋を指している。

 巣崎は「アルツハイマーではない。家族がかまってあげないからそうなる」という。

 マージャンのシーンで、父親は勝ち続け、点数の数え方も早い。

 彼は家族に向かって言う。

「きょうは頭の霧が晴れているから、遺言をいっておく」といって、娘と妻にこれから自分を捨てて自由に暮らすようにいうのだった。

 「家族狩り」は視聴率も10%を超えて順調滑り出しである。サスペンスとしての面白味だけではなく、さまざまな現代の家族の問題を取り上げるテーマに、観客が共感できれば、夏の改編ドラマの佳作となるだろう。

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