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ベネディクト・カンバーバッチの斬新なホームズ

2014年6月14日

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NHK海外ドラマ「シャーロック 3」

原作に忠実なジェレミー・ブレッドと比べてみては

  シャーロック・ホームズが、欧州をまたにかける犯罪者の宿敵である、ジム・モリアータィーの罠にかかって、高層ビルから飛び降りて死んだと思われてから2年がたった。

 NHK海外ドラマ「シャーロック 3」は、ワトソンが恋人のメアリー・モースタンと共にホームズの墓標を見つめるシーンから始まる。

     アーサー・コナン・ドイル原作のシャーロック・ホームズシリーズは、1893年12月の「最後の事件」のなかで、ホームズとモリアーティーが崖の上で格闘を繰り広げて、ふたりが瀑布に墜落するシーンでホームズの死を暗示する。

 出版社や愛読者がホームズの復活を願ったのにもかかわらず、ドイルが「シャーロック・ホームズの帰還」の著作を編む諸短編の執筆にとりかかったのは、1903年10月のことである。

  「空き家の冒険」がその復活第1作であった。それから110年の年月を経て、イギリスとアメリカの制作会社によって、舞台を現代に移した原作は、シーズン3に至って、ホームズの帰還を描いた。

 シャーロック・ホームズシリーズなら、英国のグラナダテレビが制作したジェレミー・ブレッドがホームズ役のドラマが幾度も再放送されている。

  BSプレミアム枠の「シャーロック 3」は、ベネディクト・カンバーバッチ主役の現代版の放映後に、原作を忠実に映像化したジェレミー・ブレッド版を流すという、粋な編成になっている。

  第1回「空(から)の霊柩車」、第2回「三の兆候」が放映済みで、第3回「最後の誓い」(6月7日放映予定)を残すばかりとなった。ご紹介するのに遅くはない。原作の持つ推理のおもしろさを損なうことなく、しかもスマートフォンや科学的な操作手法によって、新たな脚色をほどこした現代版ホームズ。ジェレミー・ブレッド版と同様に、これから、幾度も再放送されることだろう。

  原作について記述したことは、日本を代表するシャーロキアン(シャーロック・ホームズ研究家)である、小林司・東山あかね訳のシリーズ(河出書房新社)に拠っている。

  原作のホームズの帰還はこうだ。ワトソンは通りで、古書店を経営していると思われる本を抱えた老人とぶつかる。その老人はワトソンのオフィスを訪れて、空いている本棚を埋める本をもってきて買うことを勧めるのだった。

 「ここには『英国の鳥類』に『カタラス詩集』それに『神聖戦争』もっています――どれも掘り出し物です。あと5冊あれば、本棚のあの二段目が埋まりますな。あれじゃ、さまにならんでしょう」

    わたし(ワトソン)が振り向いて、後の書架を見て、もう一回向き直ると、なんとシャーロック・ホームズが、書斎机越しに私に笑いかけているではないか。わたしはびっくり仰天して、しばらく彼を見つめた。

 「シャーロック 3」は、テンポの良い音楽とともに、ホームズがレストランに現われる。

ワトソンが恋人のメアリーを待っている。婚約指輪をながめている。プロポーズをする場面を予想させる。

 ホームズは、ウエーターのふりをして、客の蝶ネクタイと眼鏡をとり、女性客の小物入れから眉墨をとって口髭をかく。ワトソンにシャンペンの銘柄を勧めながら、「これは旧友との再会を意味します。飲んでいただければ驚かれますよ」

  ホームズが正体を現す。「手短にいうと死んでいない。いや、びっくりさせて。おもしろかったから許されるだろ」

 ワトソンは原作のようにはいかない。「2年もだぞ。どんなにつらかったことか」

 プロポーズのシーンは裏切られて、ワトソンとメアリー、ホームズはパブに場所を移して話し合う。ワトソンはホームズにつかみかかる。

  現代版は原作からちょっと筋が逸脱しているようでいて、ホームズとワトソンの友情の濃さを強く印象づける。

  その後、ワトソンのオフィスを古書店の老人が訪ねてくる。ワトソンはホームズの変装と思い、ひげや頭髪を引っ張るが、本当の古書店主であることがわかる。

シャーロキアンとジェレミー・ブレッド版になじんだ観客にはたまらない、パロディーである。

 「シャーロック 3」は、第1話「空(から)の霊柩車」では、原作の「空き家の冒険」で帰還したホームズを狙うモリアーティー一味の裏をかいて逮捕に至るあらすじを脚色して、ロンドンの地下鉄の空の車両に仕掛けられた爆発事件を、ホームズとワトソンが防ぐ。

  第2話「三の兆候」は、ワトソンとメアリーの結婚式の披露宴で、ホームズがスピーチするなかで、過去に解決し、あるいは解決できなかった事件を語りながら、披露宴を舞台にして計画された殺人事件を食い止める。紹介される数々の事件の回想シーンのなかに、原作が盛り込まれているのだが、わたしは残念ながらひとつしか思い出せなかった。

  最終回の第3話「最後の誓い」(6月7日放映予定)では、美貌の犯罪者であるアイリーン・アドラーが登場する。過去のシリーズで、モリアーティーと組んで、ホームズを苦しめた。智謀を尽くして戦うなかで、愛と呼ぶには危うい感情が生まれた。ふたりのしゃれた会話のやり取りが楽しみである。

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