東日本大震災から3年の月日が流れた。「大震災」を忘れてはならないのはもちろんである。首都直下型地震や、太平洋岸の都市に被害をもたらす東南海地震の発生が予想されるなかで、「大震災」から学んで、その被害を減災する。
「3.11」をきっかけとする調査報道や、ドキュメンタリー、ドラマの数々を観るとき、私たちは震災を忘却のかなたに追いやっているのではなく、震災をいまだによく知らなかったのではないか、と思い至った。
地震学者や防災学者、そして通信会社など民間企業が協力して、「大震災」で何が起きたかをこの年月のなかで、徐々に明らかにしていることがわかったからである。
NHKスペシャル「震災ビッグデータfile3 ”首都パニック”を回避せよ」(3月2日)と、「”災害ヘリ”映像は語る~知られざる大震災の記録~」(3月1日)は、そうした「震災」の真相を教えてくれた。再放送が待たれる。
ビッグデータとは何か。膨大なデータを分析することによって、新たな知を引き出して、社会や組織に役立てることである。「震災ビッグデータfile3」は、乗用車やタクシーのカーナビの位置情報や携帯電話の位置情報、ツイッターのつぶやきの分析などを多層的に積み上げることによって、3.11のあの時にいったい何が起きていたかを探る。
ここで念のために番組のナレーションでも告げられたが、分析の対象となるデータは個人情報とはまったく結びついていない。個人の動静を追跡しているのではない。
首都を襲った地震の揺れは、関東大震災以来の大きなものだった。最新の免振工法が施されたビルの職場で地震に遭遇した私は、新橋から徒歩で渋谷方面の自宅に向かって歩いた。地下鉄が止まり、バスやタクシー乗り場には長蛇の列ができていたからだ。
びっしりと人波であふれた歩道を歩きながら、あの時の車道の大渋滞にはまったく気づいていなかった。
「震災ビッグデータfile3」は、首都圏が過去に例のない大渋滞に巻き込まれていたことをカーナビの位置情報によって明らかにする。警視庁が渋滞の監視をしているのは、主要な幹線道路に過ぎない。
この大渋滞がもたらした影響と、それから逃れる方法について、番組はビッグデータを分析しながら考えていく。
あの時、九段会館の天井が地震によって落ち、死傷者が出た。救急車は大渋滞に巻き込まれていつものようには現場に到着できなかった。そして、九段会館にいた人々が協力して、落ちた天井板の下からけが人を助け出そうとしている映像が映し出される。
ビッグデータから、このふたつの出来事から大きな教訓とこれからの災害に対する対応が引き出される。
大渋滞をしりめに、タクシーがわき道をうまく潜り抜けながら遠距離までふだんのように走行しているデータが現れる。こうした渋滞がほとんどない道路を、ビッグデータによって時々刻々、救急隊に提供できるようになったら、災害時の救出活動はさらに多くの人命を救う。九段会館に向かった救急隊員は、このデータを見せられると、ぜひ使いたいと語るのだった。
人々が共助によって、救出活動をする。阪神淡路大震災の時、倒壊した建物から救出された人の8割はこうした共助による、と番組は紹介する。
被害が起きた地域に、その瞬間に壮年や若者が多ければ、共助の力は強くなる。携帯電話の位置情報によって、町内会のような小さな地域ごとにこの共助力を推定できる。
東京都世田谷区の住宅街の分析によって、住民たちは自分たちが、共助力があると考えていた古い商店がある地域が、実は昼間は壮年や若者が少なくなって、震災の際の救出力が弱いことを知る。
町内会の役員たちは、一軒一軒を訪ねながら、震災の際の共助を訴えて歩くのだった。その手元には、共助力の強弱を色分けした地図が表示されたタブレット型端末があった。
防災と減災の方法は、東日本大震災の教訓によって大きく変わろうとしている。
「”災害ヘリ”映像は語る」は、3.11の直後から震災地の上空から、震災直後の現地を撮影した自衛隊や海上保安庁、各地の消防のヘリコプターがとらえた映像の分析である。
膨大な映像から浮かび上がる、これまで十分に明らかではなかった大震災の実態とは。仙台平野を襲った津波の第1波は、まるで湯船に人が入った時に湯があふれるように、海岸線を静かに超えていく。そして、幾手にも分かれながら、平野をさかのぼっていく。
津波の先端がふたつに割れたようにして進むなかで、ぽっかりと浮かぶような土地がみえる。この残った地面に住んでいたひとは、乗用車に飛び乗ってかろうじて生き残る。
地震学者は、平野のなかでわずか1メートルあまり高かったのが、こうした生存者が残った地面であることを明らかにする。その地域に住む人々は高台に逃れるのはもちろんであるが、常日頃から周囲の地勢を知っておくべきだというのである。
これからも大震災の解明が進むことによって、新たな事実が次々に明らかになって、防災・減災に役立つ教訓が引き出される。