初代内閣広報官の宮脇磊介さんが二月初旬に亡くなられた。本誌の愛読者には常連執筆者として懐かしい。警察官僚として数々の役職に就いた宮脇さんが退官後も使われていたのが「内閣広報官」であった。
首相とその内閣の政策について、いかにメディアを通じて国民に理解してもらうか。またあるときは危機管理の役割を担われた。
愛しいてやまなかったであろう、その肩書は誇りが込められていた。
バブル崩壊の過程で、反社会的勢力が跳梁跋扈していた状況に対して、「ヤクザ・リセッション」と、深層を言い当てられた。新聞記者時代にインタビューをして、この言葉を紙面で紹介したとき、その反響は欧米のメディアにも及んだのである。
ソフトバンク広報室長時代に、子会社のインターネット接続サービスで起きた、個人情報漏えい事件の際には、調査委員会の委員長になってくださって、外部の犯人たちがどのようにして犯行に及んだのか検証していただいた。
これらのエピソードは、このシリーズですでに紹介した。
繰り返しを省みず、ここに簡単に記すのは、宮脇さんに哀悼を捧げるとともに、企業の広報パーソンにとっても、仰ぐべき広報の先人であることを読者の方々にも知っていただきたいと思ってのことである。
ベンチャーやシニアで独立する人々の「個人広報」を考えてみようとしているなかで、政治家のそれかれから教訓を学んできた。
政官界の広報の先端にいらした、宮脇さんの訃報に接して、改めてこの論議を進めることにしたい。
最新刊の『国際メディア情報戦』(講談社現代新書・高木徹著)が格好の教科書となる。NHKの報道畑の出身である高木氏は、国際紛争のなかで、欧米のPR会社がいかに世界的な世論の形成にかかわっているかを明らかにしている。
「『PR』という概念の本来の意味も、いまだ日本に定着していない」と高木氏は嘆いている。
映像の専門家が描く、世界的な広報活動の先端である。日本企業の応報パーソンはいま、記者会見のネット配信や商品・サービスの映像による広報活動に力を注いでいる。
「映像の世紀といわれた二〇世紀から新世紀を迎え、映像の持つ広報の力は増している。
こうした時代に必要な広報戦術として、高木氏はふたつのキーワードを欧米のPR会社の活動から、すくいあげている。
まず、第一は「サウンドバイト」である。この言葉は放送用語で、記者会見やいわゆる、ぶら下がりのなかでの発言を数秒から十数秒にカットしてニュースに埋め込むことをいう。
これを前提として、政治家や企業人は長いセンテンスではなく、簡潔な言葉の表現の訓練が必要だというのである。
まさに、宮脇さんの「ヤクザ・リセッション」はこの模範例だろう。
次に「バズワード」である。蜂がぶんぶんと飛ぶときの擬声語が原義である。短い単語によって深いイメージを喚起する。例えば「自己責任」であり、「想定外」である。
(この項続く)
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