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剛力彩芽と玉木宏の「私の嫌いな探偵」

2014年2月21日

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 テレビ朝日の人気シリーズ「トリック」は2000年夏からの第1シリーズから、今年の年明けの新春スペシャル3で完結した。仲間由紀恵が演じる奇術師の山田奈緒子と、阿部寛の物理学者・上田次郎のコンビが、殺人事件の謎に挑む人気番組もついに幕を下ろした。魅かれあうようにみえた、上田―山田コンビは結ばれぬままに画面を去った。

  新春の大型ドラマでは、TBSの「“新参者”加賀恭一郎『眠りの森』」のなかで、阿部は刑事・加賀を演じている。見合い相手にトリックの仲間が演じる、同性の山田を登場させている。ふたりはバレーの鑑賞にきて、加賀が居眠りをしたために、山田が縁談を断る。

  「トリック」の仲間―阿部コンビを知っている観客には、たまらないパロディーである。演出家と脚本家のちょっとしたいたずらだった。あるいは局を超えたエールともいえるだろう。

  テレ朝は「金曜ナイトドラマ」に「私の嫌いな探偵」の新たに幕を上げた。「トリック」がヒット作に成長した、週末をまたぐ深夜の帯である。人気シリーズに育て上げる登竜門といえる。

  剛力彩芽が演じるミステリーマニアの女子大生・二宮朱美と、彼女が大家のビルに入居した玉木宏の私立探偵・鵜飼杜夫がコンビで、事件の謎を解いていく。第3話(1月31日)を観た。

  ナンセンスなギャグとパロディーが次々と繰り出されて、謎解きとはまったく関係がない方向にドラマは展開して、そして本筋に戻る。またあらぬ方向に。二宮―鵜飼コンビの歯切れのよいセリフと、コマ落としのフィルムをみるようなテンポの速い展開は、観客を驚かすに十分だろう。

 「シュールコメディ」とうたっている、ニュアンスが伝わる。

  殺人事件は、舞台の架空の街・烏賊川(いかがわ)市の烏賊神神社で起きる。宮司の長男の恋人が背中を刺されて死ぬ。神社にはふたつの祠がある。ひとつの祠の裏で、巫女が発見した死体が、何者かによって、もうひとつの祠の裏に知らぬ間に移動していたのが、事件の謎である。さらに死体が神社の本尊の烏賊の像を握り締めて、口を寄せるようにしていることも。

  二宮―鵜飼コンビには、刑事の砂川(渡辺いっけい)と女性刑事の三木(安田美沙子)が絡む。この砂川は捜査をそっちのけにして、妻と電話で会話して帰宅を急ぐようなナンセンスぶりである。

  事件をめぐる謎解きについて話し合う、いかがわ食堂はいかめしが名物。主人は「ばばあ」と呼ばれる男性の老人である。

  鵜飼の探偵事務所では、謎解きに詰まると突然、二宮(剛力)が事務所を訪れる大学生の戸村流平(白石隼也)とダンスを踊り出す。つられるようにして、鵜飼(玉木)も。

 二宮が顔面を覆う白いゴム製のマスクをかぶって登場するシーンもある。市川崑監督の金田一耕助シリーズの「犬神家の一族」のパロディーである。

  ミステリーファンにはおなじみの犯人が入れ替わるトリックにつかわれるマスクである。ちょっと脇道にそれるが、「トリック」の最後のテレビドラマもまた、全編「犬神家の一族」のパロディー仕立てで、入れ替わりのトリックは、独自に創作して、市川作品に挑戦している。

 二宮が通っている烏賊川市立大学で、彼女は女子ミステリー研究会の会長を務める。仲間と繰り広げる事件の謎解きにも、古今東西の探偵たちと事件の知識が口々に勝手きままに展開していく。テレビの推理ドラマの常連である、船越英一郎の等身大のパネルが、部室には飾られている。

  ナンセンスなギャグとパロディーの数々は、バラエティ番組のテンポのよい展開のように、計算されていないようでいて、事件の謎解きに向かって巧妙に絡み合っていく。

  そして、探偵・刑事物の定石通りに、いったんは解決したかにみえる事件は、最初の謎解きが誤りで、最終的な犯人に至るまでにどんでん返しがある。しかしながら、二宮―鵜飼コンビのそれは、あまりにもナンセンスで、演技のせりふ回しがひとつ狂えば、物語が台無しになってしまうような意外なものであった。

  舞台の烏賊川市のゆるキャラであるイカのぬいぐるみの中の男性が犯人で、殺された宮司の長男の恋人をその中に引きずり込んで殺した、というのが、鵜飼の謎解きであった。ところが、きぐるみの中から出てきたのは女性だった。

  ドラマは二転三転して、鵜飼は犯人を突き止める。犯人は宮司が再婚した妻の娘だった。犯行は長男に対する恋心から、その恋人を殺したことがみえてくる。

  娘の告白を断ち切るように、鵜飼はいう。

 「2時間サスペンスドラマではないので、告白はなし。みなさんで聞いてください」と。

  謎解きは唐突に終了して、鵜飼の事務所のシーンに。殺人を予告された男性が、相談に訪れる。そして、「つづく」の文字が。

  剛力―玉木コンビは、これまでにない探偵者の主人公に躍り出たのではないか。仲間―阿部のコンビがそうであったように、新しいコンビにとって、新鮮な役回りであるからだ。そして、脚本と演出が観る者が不思議な感覚に包まれる。  (敬称略)

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