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ラストまでもう1回 NHK「太陽の罠」と「まよパン」

2013年12月27日

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 最終回が迫るドラマを紹介する。ラストまでもう1回、充分に楽しめる。

 NHK土曜ドラマ「太陽の罠」(最終回・12月21日)と、「真夜中のパン屋さん」(同・12月24日)である。

  にっしーこと西島隆弘が演じるエンジニア・長谷川眞二が主人公の「太陽」は、太陽光発電に関する特許紛争が舞台回しとなっている。タッキーこと滝沢秀明がパン屋の主人・暮林陽介を演じる「真夜中」は、大沼紀子原作の「まよパン」の愛称で親しまれているシリーズがドラマ化された。

  パン屋を始めようとしていた矢先に事故で亡くなった、暮林の妻・美和子役の伊藤歩が、「太陽」の長谷川の妻・葵役で登場する。若手女優として演技派の伊藤歩は、それぞれ人生の謎を秘めた美しいふたりの妻を演じて、観客を引き込む。

  「太陽」の長谷川は、太陽光発電の開発に日夜取り組んでいる。公園で昼食を食べているとき、近くの会社のOLだという葵と知り合い、結婚する。

 長谷川が試作した音響装置は、植木の葉が太陽光電池の小さなパネルになっている。流れ出る音楽はジャズのスランダード・ナンバーである「時の過ぎゆくままに」である。

 この曲が静かにゆったりと流れていきながら、ドラマはサスペンスの緊張度を高めていく。

  長谷川が勤務するメイオウ電機がアメリカの企業から、特許侵害の警告を受ける。「パテント・トロール」と呼ばれる、有望な特許を手に入れて、メーカーに対して侵害の賠償を求める特許マフィアである。

  この特許マフィアとの戦いの正面に立つのが、訴訟対策室長の濱孝一(尾美としのり)である。濱役の尾美はいうまでもなく、連続テレビ小説「あまちゃん」の父親役。特許マフィアに狙われた理由を探っていくうちに、製造マニュアルが社内から漏えいした可能性があることを突きとめる。

  パテント・トロールから警告を受ける前から、特許侵害のおそれを濱は上司の村岡雄三(伊武雅刀)に訴えていた。村岡はその責任を回避しようとして、濱を陥れようとする。ふたりは激論の果てに、濱が村岡の撲殺を図り死体を山中に埋める。しかし、村岡は死なず、病院のベッドに意識不明のまま横たわる。

  新婚生活の甘い香りに包まれていた、エンジニアの長谷川は、太陽光発電の技術にまだ改良の余地のあることを直属の上司を飛び越えて、開発責任者に訴えたことが原因となって、知財部に左遷される。未練が残る開発プロジェクトのサーバーに、他人のパスワードでアクセスする。

 

 殺人未遂事件を起こした濱は、警察の捜査の目をくらますために、長谷川に特許の情報漏えいの疑惑によって、殺人未遂事件の犯人に仕立てようとする。

 刑事の三浦智明(吉田栄作)の捜査によって、長谷川の濡れ衣は晴れる。太陽光電池の製造マニュアルが、米国のサーバーに送信されたのは、長谷川のパソコンからであることを、三浦は告げる。

  知財部に左遷される前に、自宅に仕事を持ち込んでいた長谷川のパソコンを使えるのは、妻の葵である。葵とは何者なのか。

 葵が務めていたという会社の社員名簿にその名前はなかった。結婚式に参列した兄は戸籍上存在しない。

 メイオウ電機に太陽光発電のキーとなる技術を実質的に奪われた、中小企業の経営者の娘が、葵の正体であった。そして、兄というのは、その工場で働いていた幼なじみで、いまではコンサルタントの澤田謙(塚本高史)。

ふたりはパテント・トロールと組んで、メイオウ電機に復讐を誓ったのである。

  「まよパン」は、海外勤務をしていた暮林が単身赴任している間に、妻の美和子が開業準備をしていた。深夜11時から明け方の5時まで営業している。暮林が海外でどんな仕事をしていたのか、そもそも美和子とのなれ初めとは。暮林がそれまでの仕事をなげうって、妻のパン屋を引き継いだ理由は。最終回を前にしても、原作のさまざまな事実が明らかになっていない。

  パン職人の柳弘基(桐山照史)と、美和子の腹違いの妹を名乗ってパン屋の2階に住むようになった、女子高生の篠崎希実(土屋太鳳)がけんかするのを、静かに微笑んでみつめる暮林。パン屋に集まってくる、脇役たちの演技も含めて、原作の人気シリーズが描く群像劇の映像化に成功している。

  テレビドラマの脚本家の斑目裕也(六角精児)は、部屋に望遠鏡を備えてのぞき見がくせの男である。ニューハーフのソフィア(ムロツヨシ)、シングルマザーの水野織絵(前田亜季)とその息子のこだま(藤野大輝)らが、小さな事件を通じて絡み合い、その解決に向けて協力し合う。

  「家族」の物語が今年のドラマの大きな流れではなかったか。血がつながっているかどうかではなく、触れ合い、そしてつながり、暮らすドラマの数々である。「あまちゃん」はいうまでもない。「半沢直樹」もまた、サラリーマンのさまざまな家族模様が描いた。

  このコラムのシリーズの本年ラストに、「家族」を描くふたつのドラマをお薦めします。それでは、また来年おめにかかります。                (敬称略)

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