ブログ

水谷豊と杉下右京の終わりなき挑戦

2013年12月13日

このエントリーをはてなブックマークに追加

 テレビ朝日の「相棒」シリーズは、シーズン12となって、2000年のプレシーズンと合わせると200本以上のドラマを積み重ねてきた。このコラムのシリーズで「右京はキャラハンかコロンボか」と題して、名作推理ドラマに対するオマージュ(敬意)という視点からその魅力の源泉を探ってみた。過去のシリーズの再放送にはまってしまったからだ。

  「相棒」シリーズの主要な作品のほとんどを観たのではないか、と胸を張れるようになったのはつい最近のことである。

  シーズン12の第8話(12月4日放映予定)「最後の淑女」のゲストスターは、岩下志麻である。「相棒」の出演は初めてではないだろうか。このドラマシリーズに関しては多数の解説本が過去に出ているばかりではなく、ノベライズつまり小説化もなされている。「相棒学」ともいえる愛好家に対して、謙虚に敬意を払わなければならない。

  杉下右京(水谷豊)は過去にどれほど、日本を代表する女優たちが演じる犯人と対決してきたことだろう。フランス文学者の教授だった岸恵子が、別荘の密室事件を企てる。杉下は学生時代に彼女の授業を受講している。フランス語で詩の一節を暗唱し合いながら、ふたりの間に静かな知的なゲームが展開する。

 長山藍子が演じたのは、過激派の爆弾づくりを手伝った、恋人が誤爆で死んだ復讐のために、爆弾づくりを依頼した男性を殺そうとする翻訳家である。

  シリーズ12の初回特別編「ビリーバー」で、警視庁捜査一課の刑事トリオのなかから、三浦信輔刑事(大谷亮介)が警視庁を辞職した。事件にからんで足を刺されて不自由となり、捜査活動が難しくなったからだ。「警備会社にでも再就職する」と三浦は、病院に見舞いにきた右京に寂しそうに告げるのだった。

 同僚の伊丹憲一(川原和久)と芹沢慶二(山中崇史)のトリオの中では、ベテランのいぶし銀のような存在である。

 別の事件では、外資系企業の聞き込みに3人で行って、英語ができることがわかり、伊丹と芹沢を驚かせるシーンもあった。

 「よっ、暇か?」と声をかけて、右京の特命係の部屋に入ってきては、勝手にコーヒーを注ぐ、組織犯罪対策第5課長の角田六郎(山西惇)の人生なら、初期のシリーズで知っている。最近のシリーズでもときどき妻の悪口が出るが、恐妻家である。

 鑑識係として右京を助ける、米沢守(六角精児)は、妻が失踪したままだ。映画化された「絶対絶命! 42.195km 東京ビッグシティーマラソン」(2008年)では、妻にそっくりな女性の殺人事件が発生する。

  登場人物がたちの過去が、さりげなく最新シリーズに織り込まれていることは、「相棒」ファンにとっては、この作品の奥深さを味合う瞬間でもある。

  前回の第7話「目撃証言」(11月27日放映)は、殺人事件のきっかけが過去に起こった老女の自転車による死亡事故の際に、偽証があったことがわかる。それによって、無実の罪に服した男が復讐を遂げて、その証言者を殺す。ドラマは、二重ラセンのように、もうひとつのテーマが隠されていて、ラストシーンで明らかになる。その偽証を誘導したのは、捜査に当たっていた刑事だったのである。

 悲劇に向かうドラマは、毎回のようにその独創性をましているようにみえる。

  右京がいきつけの小料理屋「花の里」のシーン。どうして偽証にいたったのか、疑問を語る右京に対して、女将の月本幸子(鈴木杏樹)は「わかるような気がしますね」とつぶやく。

 月本は殺人未遂事件を起こして服役、そして、別の女囚の脱獄に巻き込まれる事件にも遭遇している。月本をめぐるいくつかの作品は、女優の鈴木杏樹の代表作のひとつといってよいだろう。出所後、右京の離婚した妻の宮部たまき(益子育江)が経営していた店を継いだ。旅にでた宮部たまきが、店を閉めた後、再開まで右京が仕事を終えていき場所を失くして、推理のさえを失くすエピソードもあった。

  5分間でわかる「相棒学」――などと意気込んではみたものの、「相棒」ワールドの全体像はあまりにも大きい。「だめですねぇ、君は……」と右京が、歴代の相棒をたしなめる声が、わたしにも聞こえるようだ。

 「最後にもうひとつ」と、右京の決め台詞のマネを振ってから、水谷豊のあくなき挑戦について述べてみたい。

  刑事役としての水谷の原点は、名匠市川崑監督の「幸福」(1981年)ではないだろうか。小学生の娘と息子を置いたまま、妻は実家に帰ってしまい、水谷演じる刑事は、捜査と子育てに取り組む。

 ミステリーなら、浅見光彦シリーズ(1998~1990年、NTV=現在の日本テレビ)だろう。製作は近代映画協会。映画監督の新藤兼人や吉村公三郎らが設立した独立系プロダクションである。水谷演じるフリーライターの母親役は、新藤を支えた名女優の乙羽信子である。

  映画とテレビを行き来しながら、俳優として成長を続ける水谷豊の人生もまた、「相棒学」の大きなテーマである。

  次回のゲストスターである岩下志麻は、水谷が映画デビューを果たした作品「その人は女教師」(1970年)の主役である。                     (敬称略)

WEDGE Infinity 田部康喜のTV読本

 http://wedge.ismedia.jp/category/tv

 

 

 

このエントリーをはてなブックマークに追加