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震災地に金融の「水」を注ごう

2013年12月11日

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  東日本大震災による巨大津波は、浜辺の防災林をなぎ倒して、住宅を次々に飲み込むようにして仙台平野の奥深く侵入した。宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)港の名称は、NHKのヘリコプターが上空から実況中継した映像によって、巨大地震の凄まじさを人々の記憶に刻んだ。

 地元の水産加工会社などが協同組合方式で運営していた、日曜早朝の名物の朝市も潰滅的な打撃を受けた。組合員51人のうち4人が亡くなり、家族を失った人も10人以上にのぼった。カナダ政府を中心とする復興プロジェクトによって、カナダ材で建てた「メイプル館」が浜辺に近い場所に5月に竣工して、朝市の新しい拠点がまずでき、12月には新たに3棟が加わって完成する。震災前の出店数に近い40店以上が並ぶ予定である。

 協同組合の理事長の櫻井広行さんは「復興のためにはやる気のある人がまず立ち上がらなければならない」と語る。地元の金融機関が組合に対して8000万円の融資を決めてくれたのが励みだという。

 「震災地で新たに事業を起こす人々が、水や空気のように、金融機能を使えるようにしたい」。特定非営利活動法人のプラネット・ファイナンス・ジャパン(東京)の専務理事を務める、田中和夫さんは活動の理念を語る。プラネット・ファイナンスはフランスの思想家である、ジャック・アタリさんが創設した世界的なマイクロファイナンスである。

 大震災の直前から運営にかかわるようになった田中さんは、野村証券の金融市場畑の出身である。マイクロファイナンスは、ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行によって知られる。米国企業などからの寄付金によって作った震災地向けの基金について、田中さんは新しい仕組みを考えついた。

 地元の信用金庫と協力して、融資は信金に任せて、基金はその融資対象の支援に回る。起業に必要な自己資金について、最大150万円を基金が負担する。ひとつの企業当たり従業員2人分の給与を1年間、月額10万円支給する。対象の企業は、雑貨店やパン屋、電気工事店、整骨院など、多岐にわたっている。

 日本政策投資銀行(東京)は、震災地の自治体と地方銀行と協力して、政府の復興計画や支援策と震災地の起業を結びつけようとしている。福島県との間で今春締結した連携協定に基づいて、医療機器分野への融資が検討されている。この分野で同県は生産金額がすでに全国5位の地位にある。医療機器の機能を評価する研究機関の立地も決まっている。「震災地にある成長産業の芽を育てる、金融の役割を果たしたい」と、担当部長の深井勝美さんは語る。

 閖上浜の堤防沿いに桜の苗木を植える計画が進んでいる。東南アジアの青年たちは、日本に渡って成功することを「サクラ・ドリーム」という。震災地の起業家たちの夢もそう呼ぶにふさわしい。そのためには、苗木に注ぐ金融の水が欠かせない。

SankeiBiz     フロント・コラム  田部康喜

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