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TUTAYAの戦略から見える「紙」の未来

2013年12月9日

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日本最大の売り場面積を誇る複合書店の所在地は、東京でも大阪でもない。それは東北の中核都市である仙台にある。

「蔦屋書店 仙台泉店」である。今春オープンした店舗は、もともとショッピングモールとなる予定だったビルに入居した。売り場面積は1万平方㍍近くもある。

 カルチャー・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営する蔦屋書店チェーンは、2011年春に東京・渋谷に近い代官山店をオープンして、5000平方㍍クラスの大規模店を出店する戦略を進めている。

 この戦略のシンボルとなっている代官山に続いて、前橋みなみモール店、フィオレ菖蒲店(埼玉県久喜市)、ひたちなか店、新潟万代店と出店を加速して、これらの店の規模を大きく上回る仙台泉店に至った。1983年の1号店から30周年である。

 CCC傘下で書籍と雑誌を販売している、蔦屋書店とTUTAYAの年間売上高はすでに、2012年に1097億円に達し、紀伊國屋抜いて国内最大の書籍・雑誌小売業である。

 世界最大のネット書店であるアマゾンが、日本の市場を席巻するなかで、リアルの書籍流通の領域で、CCCは果敢な戦略をとってきた。

 日本最大の書店である仙台泉店と、旗艦店である代官山を重ねあわせるとき、電子書籍時代の「紙」と「電子」の読書のありかたの未来図が見えてくる。

 出版界はすでに、「紙か電子か」の論争に終止符を打って、「紙も電子も」の路線に突き進んでいる。

 ここでは、読書人が集う書店の地点から、電子書籍時代の書籍流通を考えてみたい。ありきたりの言葉であるが、生産者の視点ではなく消費者の視点である。読書は人生の喜びであり、それは人々の生き方と暮らし方に大きくかかわっている。

■トヨタの進出で地域が変貌

 仙台泉店がある場所は、仙台市の中心街ではない。北方に広がるベッドタウンの一角にある。高度経済成長時代に三菱地所が計画した高級住宅街のパークタウンが近い。地元の開発業者も加わった、かつての新興住宅街に囲まれるように店舗はある。

 仙台市の市境を越えて北に向かうと、トヨタ自動車が名古屋と九州に次いで、国内3番目の生産基地とする工業地帯が広がっている。

 経済成長の鈍化によって、開発がいったんは停滞しかつ、都市のスプロール化によって高齢化が進んでいたこの地域が、トヨタの進出によって変貌を遂げている。大型のショッピングモールが次々に進出し、シネコンもある。かつては、仙台市にいずれ合併されて飲み込まれると思われていた隣接の町が、人口の増加によって市制施行もつぶやかれるようになった。

 仙台市の中心街から独立した都市圏のなかに、仙台泉店は「紙」の需要を掘り起こしている。書籍は、人文書や専門書、趣味の本など、80万冊に及ぶ。児童書と絵本は3万冊、玩具もある。CDは1万枚、DVDは単館で公開されたマイナーな作品までとりそろえている。カフェや本を読む座席も300席ある。

 営業時間は平日が朝9時から夜の23時まで。土日と祝日は朝8時から開店する。

 店舗が市場としてにらむ、周辺の車中心の交通網を利用する暮らしぶりに合わせて、駐車場は600台以上を用意している。

 代官山店もまた、立地している地域の人々の暮らし方に合わせた運営がなされている。仙台泉店が車で立ち寄るしゃれたロードサイド店であるとすると、代官山店は歩いて行く店である。渋谷を起点とする東急東横線の最寄り駅からばかりではなく、周囲の山の手の住宅街から起伏に富んだ風景をみながら店までたどり着くのは、ちょっとした散歩になる。

 代官山地区は、日本を代表する建築家である槙文彦さんらが中心になって、地元の住民と協議を重ねながら、樹木や路地を生かして、ゆっくりとした時間軸のなかで再開発が進んでいる。地域の価値について、過去の歴史的な文脈を忘れないという理念がある。大樹1本を切り倒すことは、地域の価値を引き下げるのではないか、という疑問をいつも持ちながら住民の議論がなされている。

 代官山店は、敷地面積1万1000平方㍍の土地に、2階建ての3棟が回廊でつながっている。それぞれが書籍、雑誌、美術書、DVD、CDなど、豊富な点数ばかりではなく、特徴をもった店舗である。

「紙」の売り上げの減少に苦闘する出版界は、その要因のひとつとして、書店の閉店が急速に進んでいることをあげる。もちろん、出版社は書店と協力して、「紙」の売り上げを伸ばす戦略をとっている。ブックフェアやキャンペーンである。

■暮らしの変化に書店が対応

 蔦屋書店のふたつの大型店から見えてくるのは、列島の都市と人々の暮らし方の変化の潮流をいかに読むかが重要ではないか、と考える。

 書店調査会社のアルメディアによる、2013年上半期の書店の状況は、閉店数が380店に及んでいる。新規店は91店である。

 街角の書店が消えていくのは読書人にとって残念なことである。しかしながら、調査統計のなかから、うっすらと読み取れるのは、都市と人々の暮らしに懸命に書店が対応していこうという姿である。

 2000年代に入って、新規店舗数が11年まで100店舗を超えている。02年が最多で246店。書店の増床面積の合計は、07年の4万1000坪をピークとしながらも、その後も2万から3万坪で推移している。

 書店は人々が「紙」を忘れ、捨てようとはしていないことを知っている。

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