「あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ。」
作家の小路幸也の「東京バンドワゴン」シリーズは、最後のページの真ん中にそんな文章がゴヂック体の文字で刻まれている。1961年生まれの小路が、テレビの黄金時代に捧げる献辞である。
日本テレビの土曜ドラマが小路の人気シリーズを映像化した。サブタイトルは「下町大家族物語」である。
ドラマは第4回(11月2日放映)に至って、多部未華子が演じる謎の女子大生の槙野すずみの正体が明らかになった。舞台となる下町の古書店「東京バンドワゴン」に、すずみは偽名で住み込んだ。店主の堀田勘一(平泉成)の孫である青(亀梨和也)の恋人である。
母を幼いころに失くして、父も最近亡くなった。「父と二人暮らしが長かったこともあって、大家族にあこがれてきた」と、大家族が食卓を囲んだなかで、すずみはいう。
主人の勘一の長男で、還暦を過ぎた伝説のロックシンガーの我南人(がなと・玉置浩二)、その娘の藍(ミムラ)、息子の紺(金子ノブアキ)、そして青、藍の娘、紺の妻子。
勘一を筆頭とする4世代同居の大家族である。
脚本家の大森美香は、原作に描かれている青とすずみのラブストーリーをすくい上げて、ドラマを貫く流れとしている。ドラマの初回から第4回まで、ふたりの出会いとすれ違い、そして誤解を描いてきた。
魅かれ合うふたりのストーリーに、大家族とその周辺の人々のドラマが織りなされていく。映画館の暗闇のなかに浮かび上がるスクリーンで演じられる完結するドラマとは異なって、お茶の間の明るい空間のなかで観られることによって、発明された連続ドラマの王道である。
ツアーコンダクターの青は、海外から帰宅の途中に酔って交番で事情を聴かれる。そこで大学の図書館で借りた本を失くして途方に暮れる、すずみに出会う。すずみは、日本文学を専攻する大学生である。
たまたま青がその本を拾って、翌日大学を訪れて、すずみに返す。自分が古書店の家族であることを告げて、連絡先を書いたメモを渡す。
すずみは古書に興味があり、古書店で働くことが夢でもあった。
名前も知らないままに、青はすずみと下町の散歩をしながらお互いに魅かれ合う。ふたりで並んで買った、たい焼き屋で、3万人目の記念の客となり、記念撮影となる。青はその写真を胸のポケットに入れるようになる。
再会を約束して、そのたい焼屋の近くの約束の場所に、すずみは現れない。
携帯の電話番号も名前も知らない青は、とうとう夜まで待つ。しかしながら、あきらめきれない。
大森のシナリオは、徐々に大家族の複雑な事情を明らかにしていく。藍と紺、青は、異母姉弟であった。藍と紺は、父親の我南人の正妻の子であるが、青はそうではなく、乳児のころに我南人が家に連れてきた。青の母が誰なのか、それも第5回(11月9日)以降で明らかになっていくのだろう。
藍もまた秘密を隠している。古書店のなかで営業しているカフェを手伝いながら、藍は印象派のようなタッチの絵を描いている。シングルマザーで、娘の花陽(尾澤ルナ)の父親を家族にも明かしていない。
すずみの正体が明らかになる第4回は、そうした初回からのいくつかの謎が解き明かされた。
すずみの父親は、日本文学を専攻する大学教授だった。そして、その教え子が藍であり、結ばれて生まれたのが、娘の花陽であった。
すずみは、父の死の直前に妹がいることを告げられる。藍は憎しみの対象であった。「東京バンドワゴン」の古書店に住み込むようになったのは、父が母に贈った研究書を探すことであった。その本は父の出世作であり、母に捧げる言葉が自筆で書かれていた。
古書を保存している蔵が荒らされる。藍が描いていた絵が、切り裂かれる。
すずみが夜に部屋のなかで、すすり泣くのをふすま越しに青が聞く。
ドラマの謎解きは、店を手伝っている紺が中心となっているが、ときに父親の我南人が、そして青が加わる。
すずみが通う大学と偽名に似た人物をたどって、家族たちは、すずみが何者であるか、そして家のなかで起きた小さな事件の犯人がすずみであることを突き止める。
大家族が集う居間で、すずみを囲んで、ドラマはこの回の結末に向かう。
「すいませんでした」と頭を下げるすずみに、藍が本を差し出す。「わたしが先生のところから盗んだんです。ごめんなさい」と。
涙を流しながら、古書店を去ったすずみを青が追いかけて、連れ戻して、家族にあらためて紹介する。
「僕の恋人の槙野すずみさんです。これからもよろしく」
我南人がいう。
「Loveだねぇ」
この言葉は、ドラマの毎回の締めとなる決め台詞である。
そして、その玉置が歌うエンディングとなる。
「東京バンドワゴン」が描く大家族は、過去形ではなく、現在である。テレビは「今」を描くメディアであり、そうであってこそ、人々の心を打つ。東日本大震災後、家族のありかたと周囲とのつながりについて、人々はあらためて考えている。 (敬称略)
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