誉れもなく
訾(そしり)もなく 荘子『山木篇』
(誉れにも、謗りにも気にかけず、 臨機応変にしてとらわれない)
企業や組織の危機管理の正面に立つ広報パーソンは、そのような気構えで臨んでいる。
レピュテーション・リスクを回避しながら、同時に彼らが考えているのは、その防止策である。
リスク管理の専門家と称する人々が、企業事件についてコメントする言葉は、事件の結果をみていう「後(あと)知恵」に過ぎないことが多い。
情報開示や謝罪会見の時期の遅れや、そのやり方について批判する。それらの指摘は往々にして、経営者や広報パーソンを標的にした批判である。
そうした指摘に対しても、ほまれもなく、そしりもなく広報パーソンは誠実に対応しなければならない。
レピュテーション・リスクを再び起こさない社内組織や態勢とはどのようなものか。
それを提案してこそ、広報部門は役割を果たす。それは企業や組織外の人々に知られることはない。
新聞やテレビ、雑誌でコメントする、リスク管理の「専門家」たちは浅薄である。
「ビッグデータ時代」は、レピュテーション・リスクの再発防止いや、予防すらできる武器を、広報パーソンに与えてくれそうだ。
このシリーズで基本文献として推奨している、『ビッグデータの正体』(講談社刊)から参考となる例を引こう。
欧州の大手自動車メーカーのビッグデータの分析である。
自動車にはマイコンチップやセンサーなどのソフトウェアが多数、搭載されていてメーカーに走行距離などのデータが送られてくる。
このメーカーはそうした複数のデータを組み合わせて分析した結果、燃料タンクのセンサーに不具合が多いことを発見する。
この問題の部品を製造した企業に賠償を求めただけではない。部品のソフトウェアの改良ついて、特許まで取ったのである。
JR北海道の不良点検問題や、JR西日本の脱線事故は、ビッグデータの活用によって、防げる可能性がある。後者の事故は経営陣の刑事責任は無罪になったが、企業のレピュテーションは大きく損なわれた。前者の解明は十分に進んでいないが、企業責任は免れない。
JRグループのみならず、私鉄も含めて、ビッグデータの分析が導入されれば、日本の鉄道の安全性はいっそう高まるだろう。
ビッグデータの活用は、企業と組織の危機管理についても、大きな変革を迫る。
日本の企業でも導入が始まった、CRО(最高危機管理責任者)とそれを支える組織の課題である。東日本大震災を持ち出すまでもなく、災害や企業がからむ事件や事故にどのように対応するのか。
そのすべては、レピュテーション・リスクにかかわる。
(この項続く)
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