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「あまちゃん」の物語の先に見えるニッポンとは

2013年10月16日

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 NHK連続テレビ小説「あまちゃん」は最終回を迎えて、主人公の天野アキ(能年玲奈)と足立ユイ(橋本愛)のふたりは、北三陸鉄道のホームを飛び降りてかけていく。東日本大震災による津波で流された鉄道は一部回復した日、これから東京に向けてつながる鉄路を。

 ドラマは東日本大震災をはさんだ3年間を描いて、その最終回のその日の設定は、2012年7月1日である。

 「あまちゃん」の脚本をてがけた宮藤官九郎によって、震災前と震災後の社会に懸け橋がかけられ、人々が震災後の未来に向かってようやく顔をあげられるようになったのではないか。

  NHKスペシャル・MEGAQUAKEⅢ「よみがえる関東大震災~90年目の警告~」(8月30日)と、首都圏スペシャル「地震火災から命を守る~関東大震災90年~」(8月31日)は、震災後の世界を歩み始めた我々に、祖父母や父母が体験した大震災の教訓を思い出させる。

  1923年9月1日午前11時58分、マグニチュード7.9の巨大地震が首都圏を襲った。その揺れは10分間にもわたった。

 フィリピン・プレートが陸のプレートの下に潜り込むようにして、ひずみが起きて、地震が発生する「プレート境界型」の巨大地震だった。

 震災とその後の火災による死者は、10万5000人に達した。

  NHKスペシャル「よみがえる」は、関東大震災が発生する前から警告を鳴らしていた、地震学者の今村明恒の研究に焦点を当てると同時に、彼を中心とする再現ドラマ、そして現代の地震学者の証言を綴りあわせながら、次の関東大震災の可能性について解き明かしていく。

  東大助教授だった今村と、同じ教室の上司にあたる教授の大森房吉との確執と和解の物語は、吉村昭の読み継がれるべき名著である「関東大震災」のひとつの大きな柱となっている。科学的な分析に加えて、古文書などによって、今村は関東を襲う巨大地震の可能性が高まっていることを、雑誌に論文を寄せた。今村の本意は、地震に備える都市づくりを進めることを提言するものであったが、新聞は巨大地震が近いことをセンセーショナルに報じた結果、窮地に立つ。東京市民が避難する騒動に至って、教授の大森が、今村説をまったくのでたらめの「浮説」とまで断定した。

 今村は研究を続けて、巨大地震の揺れを記録する地震計を開発し、全国7カ所に設置し終えたのは、関東大震災の8カ月前のことであった。それらの地震計が記録した波動は、巨大地震が初めて科学的記録となったものである。さらに、今村は、多数の死者が出る原因となった火災について、発生源と広がりの様子を研究室の研究者たちを総動員して、詳細な記録も残している。

 フランスをはじめ世界各地で記録された同様の記録と、地震発生後の戒厳令のなかで、イギリス人カメラマンが隠しカメラで撮影した映像を、現代の地震科学者たちが分析する。

 次の関東大震災の可能性はどうか。

今村は、東京湾岸や房総半島の地層の隆起に注目した。過去の巨大地震によって、隆起が階段状になっていて、その発生の年代を推定できるとした。現代の地震学者はこれまで、同様の分析によって、巨大地震は300年に1度の割合で起きていると推定していた。しかし最近の調査によると、その年月の間隔は短くなって、100年に1度と考えられるようになった。

  また、プレートのひずみは、巨大地震によって、そのエネルギーが減ると考えられてきた。房総半島に西側のエネルギーは確かに、関東大震災によって減じたが、東側にひずみのエネルギーがたまっていることがわかってきた。GPSを利用して、陸地の移動を想定した結果である。このひずみが巨大地震につながると、プレートのずれの位置が陸側に近いので、地震発生から津波が襲うまでの時間が極めて短いという。

  首都圏スペシャル「地震火災」は、関東大震災で最大の死者を出した旧本所区の陸軍被服廠(ひふくしょう)跡地を襲った、火災による熱風である旋風に焦点を当てる。人が巻き上げられて宙に飛び、熱風によって髪の毛や被服が燃え上がる地獄のような光景を体験した、90歳代の生存者の証言を紹介していく。

 いかにして次の関東大震災の際に、地震火災から避難するかが、番組のテーマであった。防災学者の意見をとりまぜながら、女性タレントと視聴者から寄せられた質問に答える形で、具体策を紹介していく。

  火災を「起こさない」、「消す」そして「逃げる」である。

 北区の木造住宅密集地帯の避難訓練が取り上げられる。地区の住民の7割が、避難場所として、小学校を上げた。しかし、防災学者は、小学校は火災による熱風が襲った場合に危険である、と説く。緑地が広がる地域に逃れるのがよい、という。この助言にそって、避難訓練がなされる。密集地域は狭い路地と、思いのほか随所に階段があって、想定の時間内に避難場所に逃れることができなかった。

  「あまちゃん」が、大震災とその直後の震災地と東京を描いていたとき、2020年の東京五輪の招致が決まった。7年後の東京と日本は、過去から学んでいなければならない。

(敬称略)

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