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関電事件にみる「不正の三角形」

2020年7月1日

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政治経済情報誌「ELNEOS」7月号寄稿

関西電力の首脳陣に対して、高浜原子力発電所の地元の町幹部経験者から金品の提供があった問題などについて、同社は第三者委員会(以下、委員会)の報告を受けて、六月中旬に旧経営陣五人に善管注意義務違反があったとして、計約一九億円の損害賠償訴訟を提起することを決めた。

 委員会の報告書は、町幹部から関電の役員と職員計七五人にわたった金品は、一九八七年から二〇一〇年代後半にかけて計三憶六〇〇〇蔓延に上ったことを明らかにした。木穴沢国税局が二〇一八年に関電にも調査に入ったのを受けて、内部調査をしたにもかかわらず、役員研修会という集まりで検討したうえで、社外取締役を含む取締役会や監査役会にも明らかにしなかったばかりではなく、対外公表もしないことにした。監査役会に報告されたのは、内部調査の結果が出てから三カ月余りあとあとだった。

 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、関電の原発も稼働が停止し、経営不振に至った一二年三月から一九年九月まで役員賞与が削減されたのに対して、その後補てんされていた事実も明らかになった。

 さらに、高浜原発の地元の町幹部経験者から受け取った金品に対して、金沢国税局が役職員に対して追徴課税を行ったことに対しても、追加納税分を補てんしていたのだった。

 大企業の社外取締役や第三者委員会のメンバーなども経験してきた、会計学者の八田進二・青山大学名誉教授は、最新刊の『「第三者委員会」の欺瞞』(中公新書ラクレ)のなかで、企業の経営者が不正に走る要因として、「不正の三角形(トライアングル)」という概念を紹介している。

 すなわち、➀不正をする動機②不正をする機会⓷不正を正当化する実行行為を自らが正当化し、これを決断する、という三要素から構成されている。

 この概念はもともとアメリカの犯罪学者のドナルド・R・クレッシャーが導き出したもので、個人による横領や着服といった犯罪以外の企業「不正」にも応用が広がったものであるという。二〇世紀末から公認会計士の監査の現場でも導入されるようになった。

 報告書が明らかにした関電の不正はまさに、この「不正のトライアングル」そのものではないか。

 原子力発電所の立地について地元の摩擦を避けようとする「動機」があった。地元の町幹部からの金品の提供という「機会」があった。さらに、こうした行為を自らが正当化する「決断」があった。

 企業の第三者委員会の報告書について、ボランティアとして評価を下す「第三者委員会報告書格付け委員会」の委員を務めて、会計学の側面から第三者委員会の改善の提言を続けている。

 そうした実学家である、八田教授は第三者委員会には否定的である。それは、山一証券の破綻による内部調査委員会にその歴史を発する、日本独自の仕組みであり、企業の府営は本来、欧米のように監査役および社外取締役が専門家の協力を仰ぎなら徹底的なメスを入れるべきものである、という確信にある。  

(この項了)

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