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現代女優論   江角マキコ

2013年10月2日

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 フジテレビの水曜ドラマ「ショムニ2013」が9月19日に最終回を迎える。第1シリーズの1998年から、2000年、2002年とシリーズが引き継がれ、11年ぶりの新作であった。

 満帆商事の庶務2課「ショムニ」のリーダーである、主人公の坪井千夏役の江角マキコは、代わらない。

  前回の第9話では、満帆商事がIT企業・フォローウインドエイジェンシーによって、乗っ取られる。提携を持ちかけたフォローウィンドが、船上のコスプレパーティーに商事の役員や従業員全員を招待して、人がいなくなった本社のなかで、フォローウィンドの社長が商事のサーバーにアクセスして、個人株主の名簿を盗み出す。船上のパーティー会場の映像装置に、フォローウィンドの社長がパソコンのウェブカメラを通して、商事を傘下に収めたことを宣言する。

  商事が事業の拡大を狙って、ブライダル産業やハンバーガーのチェーン店などに乗り出そうとして、さまざまなトラブルが発生して、提携先との交渉が暗礁に乗り上げようとするとき、ショムニメンバーはこれまで、知恵を絞って解決にあたって成約に導く。そればかりではなく、コンプライアンスの行き過ぎによって、社内業務が停滞したり、若手社員と管理職とのコミュニケーションがうまくいかないために、提携先との関係がこじれたりするたびに、ショムニは活躍してきた。

  江角は幸運な女優である。島根県出雲市出身で、高校時代からバレーボールの選手で、卒業後に大阪の実業団のチームに入り、ケガが原因でファンションモデルから芸能界に転じた。その女優デビューはさまざまな賞に彩られている。

  ドラマの初出演は、TBS日曜劇場の「輝け隣太郎」(1995年)である。広告マンの萌沢隣太郎(唐沢寿明)の恋人役でのちに妻となる角田真実子役であった。スポーツウーマンであったその長身のスタイルと、母親役の樹木希林を相手に軽妙なやりとりをする演技力にも驚かされた。柔道の一本背負いでライバルらを投げ飛ばす、決めポーズもまた堂にいったものだった。

  そして、是枝裕和監督の「幻の光」である。テレビドラマ初出演と同じ年に封切られた。是枝監督の初監督作品は、ベネチア映画祭などさまざまな映画祭で受賞した。江角は、日本アカデミー賞の新人俳優賞を獲得した。

 江角が演じる主人公のゆみ子は、生後3カ月の息子を抱えて、夫が自殺してシングルマザーになる。住んでいた大阪から、大家が世話した娘がいる男と再婚して、石川県輪島の海辺の地区に移り住む。新しい土地になれていき、夫婦とふたりの子どもとの生活も順調に過ぎていく。裸の夫との膝に上半身をさらした、江角が背中向きにからだをあずけるシーンは、窓越しの夏の日本海の夕方の光に照らしだされて美しい。ゆみ子はしだいに、前の夫がなぜ自殺したのか、その理由がわからない不安にさいなまれていく。

  「ショムニ」の新シリーズは、第3回から前回まで観た。同じ時間帯に、日本テレビが「Woman」(満島ひかり主演)を放映しているので、毎週どちらかが録画鑑賞となった。シングルマザーを主人公にした後者については、心にしみ透るような映像とセリフの数々について、このコラムのシリーズで、すでに取り上げた。

 ショムニはこのドラマとは、まったく趣を異にする。登場人物たちは、その演技と表情が徹底的に誇張されている。美貌の女優陣たちがめまぐるしく動き回り、そのセリフは大仰である。千夏(江角マキコ)のライバル役の壇上みきを演じる片瀬那奈は、この番組を観ることによってその美しさを知った。さらにその部下に3人の「キラキラガールズ」までいる。

 企業社会の「いま」を撃ってこそ、視聴者のこころをつかむ。「ショムニ」には、その「いま」が微妙にずれていたのではなかったか。

  サラリーパーソンのドラマには、所属する企業が取り組むプロジェクトに主人公がからんで、奮戦する様が描かれるのは定石である。ブライダル産業とハンバーガーチェーンというのはどうか。部下と飲むことによって、コミュニケーションを図るのが一番と思っている部長とその部下のずれ、コンプライアンスのいきすぎによる業務の停滞……多くの企業ですでに、乗り越える手法や仕組みづくりがおこなわれている。

  フジテレビの社長に就任して間がない、亀山千広は産経新聞のインタビューに答えて次のように述べている。

 「現場と意見交換する機会を持つようになり、以前より、番組作りにおいていろんな分析をしたがる傾向が分かってきました。ただ、マーケティングだけでは明日何が当たるかまでは分からない。『発明』がないと視聴者は面白がってくれない」

 今回の新シリーズの視聴率が回によっては1桁にとどまった理由は、亀山のいうマーケティング的な分析よってドラマが制作されていったところにあるのだろう。

 それよりも、女優・江角マキコの才能は、千夏だけではない別の役で発揮する可能性を秘めている。それを引き出すのは、テレビ局の企画能力にかかっている。                          

(敬称略)

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