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TBS「半沢直樹」とNHK「七つの会議」 池井戸潤の世界をいかに描くか

2013年8月12日

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 作家・池井戸潤の作品は購入しながらも、直木賞受賞作の「下町ロケット」も積読(つんどく)のままである。その池井戸原作の2作品がドラマ化された。

  「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」を脚色した、TBSの日曜劇場「半沢直樹」。原作と題名をそのままに、NHKの土曜ドラマ「七つの会議」である。

  「読んでから見るか、見てから読むか?」は、角川映画のかつてのキャッチコピーである。溝口正史や森村誠一らの作品を映画化するとともに、文庫本のキャンペーンを進めた。

 「七つの会議」は原作を読みながら、「半沢直樹」は読まずに観ることにしてみよう。

  「七つの」の主人公は、東山紀之が演じる中堅の電機メーカーの課長・原島万二、「半沢」は大手銀行の支店の課長で、演じるのは堺雅人である。

 原島も半沢もバブル入社組である。

 「七つの」は第1回「だれかが消えていく」(7月13日)、第2回「二度と戻れない」(7月20日、「半沢」は第1回(7月7日)、第2回(7月14日)を観た。

 ふたつのドラマは、ネジがキーとなる。「七つの」では、電機メーカーが製造した高速鉄道や旅客機の座席に使われている特殊合金製。そして、「半沢」では主人公がお守りのように持っている溝に血がついている樹脂性で、それは父親の中小企業が造っていた製品である。

  「読んでから見るか、見てから読むか?」。わたしはそのどちらも好きだ。さらに、読んでから見て、また読むも。

  「七つの」は、原作を読む速度がドラマの進展を上回った。脚本は、日本を代表する俳優となった東山のために書かれたことがわかる。原作の登場人物たちの信条や行動をまとめかつ煮詰めて、東山演じる原島の人間像を新たに作り上げた。

  ドラマは、企業の調査委員会の弁護士が、聴取の部屋で原島と向き合う場面から始まる。

弁護士はいう。

 「平成2年入社ですか。バブル入社ですね。経費が使い放題で、さぞかし楽しい時代だったでしょう」

 原島は答える。

 「経理部から始めたので、領収書が目の前を通り過ぎたのをみただけですね」

 部屋の時計が午後2時となる。

 「定例の会議ですから失礼します……そうか……」

 立ち上がった原島に、弁護士が言葉をかける。

 「会議はもう…」

 

 原島の会社が下請けに発注したネジが強度不足で、鉄道や航空会社に納入している座席の背もたれが支えきれなくて壊れて、すわっている人が怪我をする可能性が浮かび上がる。

 あまり日の当たらない課長ポストから、花形の営業1課長に異動した原島が、部長からネジの発注元を変更するように特命事項として命じられ、大阪の零細企業などを回るうちに、強度不足に気付いていく。

 顧客の苦情窓口であるカスタマー室長の佐野健一郎(豊原功補)も苦情の分析から、同じ結論に達する。佐野は中途入社で、営業の花形部署から左遷された男である。

 原島と佐野のふたりは、いったんは協力して、強度不足のネジが納入されたいきさつを探ろうとする。その途中で佐野は、この件を利用して左遷の原因となった上司の責任を問い、再び主流の道に戻ろうと、社長の宮野和弘(長塚京三)をはじめとする経営層に告発文を送る。

  しかしながら、宮野の部下に対する指示は「この件、隠蔽せよ」であった。

  原島はこの企業犯罪を食い止めることができるのだろうか。あるいはその罪の一端を担わされるのであろうか。

  企業を舞台としたサスペンスのなかで、課長役の東山は俳優として新境地を切り開いている。頭にはうっすらと白髪がのぞく。老眼鏡と思える眼鏡がちょっとずり落ちる。

  「半沢」のドラマの底流を流れているのは、息苦しい復讐劇の主音調である。

 中小企業の経営者だった父親が自殺したのは、半沢が働いている大手銀行が融資を断ったからである。

  半沢は、大阪の旗艦店の花形ポストである融資課長である。同期の出世街道の先頭を行く。

  支店長が、社内の優良店の表彰を受ける競争のために、中堅の鉄工メーカーに5億円の融資話をトップダウンで半沢に命じる。

 融資先が倒産して、半沢は窮地に立つ。回収不能になった5億円の責任をすべて押しつけられたからだ。

  半沢はその債権の回収に乗り出す。連鎖倒産をした零細企業の経営者である竹下清彦(赤井秀和)らの協力を得て、計画倒産であることを突き止める。

 融資先の企業に対して、国税局も脱税を発見して、その債権の確保に乗り出す。

   日本経済がバブル経済の熱狂にかけあがった1980年代、そしてバブルの崩壊、デフレが続き、失われた20年を経過した。バブル入社組も40歳代半ばとなって、組織の中核である課長クラスになっている。

  彼らが社会に出たころは、日本企業の特質であった終身雇用も健在だった。年俸制の導入などで雇用の安定性も崩れた。リストラの嵐はいまも止まない。

 戦後のサラリーパーソンのなかで、バブル世代が実は、もっとも過酷な人生を歩まされているかもしれない。

 「七つの」と「半沢」が描くこの世代の運命とは。ふたつのドラマはどちらも本格派である。

 (敬称略)

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