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電子書籍市場から学ぶ「成長戦略」

2013年8月9日

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 東京湾岸の高層ビルをぬうように滑走する、「ゆりかもめ」は大型展示場のビッグサイトに向かっている。座席にすわった白髪の老婦人が、タブレット端末iPadのカバーを開いて電子本の小説を読み始める。読書端末の画面の上で指を滑らせてページをくくる人が、車両に5人もいる。「電子出版EXPO」が開催されていて、その客が多かったせいである。

「電子書籍元年」と幾度唱えられたことだろう。日本において、アップルがiPadを発売したのは2010年5月、楽天のコボは12年7月、アマゾンのキンドルは同年10月。日本上陸の先陣を切るiPadをにらんで、電子雑誌のパッケージ販売サービス会社を、わたしは社内起業した。出版社と印刷会社、そして書籍を本屋に卸す取次会社など、伝統的な「紙」の本のビジネスモデルが、「元年」の幕を開けないことを知る。

 「電子出版EXPO」までの移動中にみた光景と、展示ブースの活況は二重写しになっていま、大きな転機を迎えていることがわかる。メーカーは新製品の電子端末のデモンストレーションを繰り広げ、電子書籍の製作から販売、顧客管理まで受注するベンチャーが、商談を進めている。

 「音楽事業はアップルに、本はアマゾンに独占されることが日本で起きていいのか。改革や改善では間に合わない。イノベーションを起こさなければならない」

 EXPOの基調講演のなかで、KADOKAWA会長の角川歴彦氏は、電子読書端末の急速な普及が進むなかで、アップルとアマゾンの価格決定権が強まっていることに危機感を抱く。電子書籍の将来性をいち早く予言し、この分野をけん引するベンチャーとである。講談社と紀伊国屋書店のトップを登場させて、自社とともに図書館向けの電子書籍の貸し出しサービスをする、新会社の設立を発表した。

 政府は12年4月、電子書籍市場を成長させる目的で、出版デジタル機構を設立した。出資金の中核は経済産業省系の投資ファンドの150億円。中小出版社の書籍の電子化事業などをてがけていた。5月末、電子書籍の取次会社を買収した。この機構の性格は当初からあいまいで、いずれの事業も官があえて乗り出す必要はない。

 電子書籍の成長戦略のなかでやるべきは、「紙」と「電子」のビジネスモデルの在り方を法律によって、著作権者や出版社などの権利を確保し、企業がこの分野に進出しやすくすることである。国際標準図書番号(ISBN)の出版社番号の申請が急増している。新規申請が2011年度から900件を超える。出版社以外の法人や個人が、電子出版に乗り出そうとしているからだ。

 酷暑のために、緑陰読書はままならず、冷房の効いた室内でキンドルのカバーを取る。宮崎駿監督の新作のアニメ「風たちぬ」の公開が近い(7月20日)。堀辰夫の同名作品は本棚から探しあぐね、ダウンロードは無料であった。

SankeiBiz     フロント・コラム  田部康喜

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