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安倍晋三首相のトップマネジメント

2020年4月1日

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 新型コロナウイスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相は二月二九日に初めて記者会見に臨んだ。首相は緊急対策の第二弾として、ウイルス検査体制の強化策などの説明に冒頭の二〇分近くを使い、記者の質問に答えたのは二〇分弱だった。説明にはプロンプターを使い、質問には手元の想定問答の答えを読み上げた。

 この記者会見は、メディアやネットの有識者のコメントをみるとすこぶる評価の低いものだった。首相が説明した第二弾の内容をみると、空疎な中身とは必ずしもいえない。

学校の急行によって仕事をやすまざるを得なくなった保護者には、賃金を補てんするための企業向けの制度を新設することや、医師が必要と判断したすべの患者にウイルス検査をするとともに、その費用については三月第一週から健康保険の対象とすること、など多岐にわたっている。

 安倍首相の説明がメディアやネットの識者に響かなかったのは、従来からの「反安倍」の感情ばかりとはいえないだろう。

 ここでは、マネジメントとう補助線を引きながら、安倍首相のトップマネジメントのありようを考えてみたい。日本経営者の多くが教科書としている、P・F・ドラッカーの「マネジメント【エッセンシャル版】――基本と原則」(二〇〇一年一二月刊、上田惇生編訳・ダイヤモンド社)を手がかりとしたい。

 「トップマネジメントに課される役割は、各種の能力、さらには各種の性格を必要とする。少なくとも四種類の性格が必要である。『考える人』『行動する人』『人間的な人』『表に立つ人』である。これら四つの性格を合わせて持つ者はほとんどいない」

 「トップマネジメントにはそれぞれの流儀があり、それぞれ自分なりの役割を決めればよいという考えはナンセンスである。……トップマネジメントとは何であり、何でなければならないかは客観的に規定される。引力の法則が、その朝物理学者が食べたものと関係がないように、トップマネジメントの役割はその座にある者の流儀とは関係ない。……トップマネジメントの役割が多様な能力と性格を要求しているという事実とが、トップマネジメントの役割のすべてを複数の人間に割り上げることを必須とする」

 ドラッガーはトップマネジメントの役割を例示する。➀目標の設定、戦略計画の作成、明日のための意思決定②組織をつくりあげ、それを維持する③トップの座にあるものだけの仕事として渉外の役割⑤重大な危機に際しては、自らから出動する、著しく悪化した問題に取り組む。

 「マネジメント」を座右の書としていた、IT経営者のもとで働いていたとき、危機に際して彼は昼夜をおかずに対策会議を主催し、記者会見を一手に引き受けた。会見は記者の質問がなくなるまで続けた。

 安倍首相の会見後、自民党のコロナウイルスに関する対策本部は提言をまとめて、政府の広報について「専門家とともに首相による情報発信を強化する」ことを提言した。

 政府がコロナウイルスという危機にあたっては、広報の手法ではなく、トップマネジメントが問題である。

          (以上です)

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