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「空飛ぶ広報室」は社会派ドラマ

2013年6月24日

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 航空自衛隊のブルーインパルスの6機の編隊が、それぞれの機ごとに大きな円を夏空に描いて見せた。東日本大震災で被災後、復旧した本拠地の松島基地から飛来した。

震災地の鎮魂と復興を祈る「六魂祭」の本会場の空である。東北の祭りがそのために集う、3年目の今年は6月初旬に福島市であった。

 TBS日曜劇場の「空飛ぶ広報室」は、そのブルーインパルスに所属することを夢見ていたパイロットがけがのために、航空幕僚監部の広報室勤務に異動となる。綾野剛が演じる二尉の空井大祐である。

 その広報室の密着取材をしているのが、新垣結衣の帝都テレビディレクター・稲葉リカ。報道記者を希望して入社し、いったんはそのチャンスをつかむが、トラブルを起こして夕方の情報番組の担当に異動したばかりであった。亡くなった父親は新聞記者である。

 空井の上司の退官間近い広報室長・一佐の鷺坂正司役は、柴田恭平。帝都テレビの情報局の部長として稲葉に対して、厳しい口調ながら、あたたかく見守るのが、生瀬勝久の阿久津守である。

 第7回「いざという時にそばにいられない男でいいか?」(5月26日)、第8回「運命が変わる2秒間」(6月2日)、第9回「つのる想い・あふれる涙」(6月9日)を観た。

 稲葉が取り組んでいる、広報室を舞台とした密着取材の番組制作と、広報室が航空自衛隊の募集のために作ろうとしているプロモーション・ビデオが、からみあってストーリは展開する。

 「空飛ぶ広報室」は、視聴率がキー局のドラマ部門のなかで検討している。毎週10%を超えて、ベスト10を維持している。

 「ガリレオ」(フジテレビ)や刑事を主役として推理ドラマや、「35歳の高校生」(日本テレビ)といった意表を突いた設定のドラマと比べると、「空飛ぶ」は趣を異にする。

 航空自衛隊の広報室と、仮名ながらテレビ局という組織の内側をできうる限り描こうとしている。「空飛ぶ」が視聴者をとらえているのは、元パイロットの空井とディレクターの新垣の恋愛の物語ばかりではないと思う。

 航空自衛隊の募集用のプロモーション・ビデオは、」いったん完成する。ダーツバーでくつろいでいた若者たちが、災害救助の指令を受けると航空機のパイロット姿に一変して任務に向かう。広報室長の鷺坂が室員たちのアイデアを尊重して、自由に作らせた自信作は、上層部に対する試写で簡単にボツになる。

 ビデオの登場人物たちは酒を飲んではいない設定ではあるが、バーから現場に向かう映像が問題になったのである。

 制作の予算をほとんど使いきった室員たちは、知恵を絞る。亡くなった父親が輸送機に勤務していたことから、航空自衛隊の航空機の整備員になった女性自衛官をドキュメンタリーのように撮影することになる。

 女性自衛官が父親の墓参りに行く場面を撮影しているときに、上空に父親が乗っていたと同じ機種の輸送機が通過していく。まったくの偶然である。

 このプロモーション・ビデオが、世論の批判を浴びる。貧困化する若者を支援するNPOの団体の代表が新聞の夕刊で、就職できない若者につけこんで自衛隊が募集活動を行っているとコラムに書いたのである。さらに、帝都テレビのニュース番組でも取り上げて、ビデオがやらせの疑いがある、とも指摘した。

 広報室長の鷺坂は、帝都テレビに対して訂正を求める、抗議文を送ることを部下に指示する。帝都テレビは出演者の個人的な発言であることを理由として、訂正を拒否する。

 稲葉は密着番組の編集作業を、この騒動のなかで完成を急いだ。そのDVDと航空自衛隊のプロモーション・ビデオに関するニュース報道に対する意見書をまとめて、報道局長に提出する。やらせではないのに、そのような疑いを表明したNPOの代表の発言について、テレビ局として責任を明らかにすべきであると。

 「空飛ぶ」が描いているのは、社会と組織の摩擦であり、その組織のなかでもさまざまなあつれきが日々生じている。

 さらに、自衛隊という組織に対する社会の厳しい目がある。テレビ局の内部には、報道の自由とニュースの内容との間に日々苦闘が続いている。

 「空飛ぶ」は本格的な社会派ドラマである。自衛隊とテレビ局の内部を描こうという企画は、いかに恋愛物の衣装をまとっていたとしても、実現するまでにTBSのなかで論議があったと考える。

 社会派ドラマの成否は、登場人物に視聴者がいかに感情移入できるかにかかっている。若手サラリーパーソンたちは、空井と稲葉のコンビに。そして管理職の人々は、広報室長の鷺坂と阿久津に、日々の組織人としての感慨を重ね合わせることだろう。

 新聞記者から広報室長に転職したわたしは、「空飛ぶ」がドラマでありながら、社会の現実と組織の真実を貫いていると思う。

 感情移入しているのは、柴田恭平の広報室長である。このシリーズでなんどか触れている「ハゲタカ」(NHK)のなかで、銀行員を演じている。わたしが社会に出た同じ年の入社という設定の役であった。「空飛ぶ」では間もなく退官になる。    (敬称略)

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